「いいね!」が消費を破壊する。(再掲)

いやはや、すごいヤツがいたものである。
誰のことかって?
ジャスティン・ローゼンスタインのことだ。

知らない?
フェイスブックの「いいね!」ボタンを開発したヤツだよ(翻訳調)。

SNSが社会を変える/変えたという話はよくあるけれど、「いいね!」が消費行動を変化させたという研究はまだそんなにない。
消費行動の何割かは他者からの承認欲求を満たすために行われる。
かっこいい車を買って街を走る、最先端のモードを着こなして素敵と言われる、ブランドショップで常連になり店員となかよくなる。
そんな消費に費やされるお金のうち何割かは、他者からの承認を得るために支払われる。
コレクターと呼ばれる人種だって、珍品逸品を集めた暁には、コレクター仲間に「すごい」「さすが」と承認されたくなるものだ。

さて、そんな他者からの承認が実質無料で手に入るようになるとどうなるか。
承認を得るための消費が姿を消すことになる。
だから若者は高額なモードファッションからシンプルなノームコアファッションに移行した。
ローンを組んで車を買い替えるのを止めた。
「センスいいね」「お、車変えたの」と言われる程度の承認欲求なら、SNSで満たされるからである。
可処分所得は限られている。
その中で、高い服を買ったり車を買って他者から承認を得るというのはコストパフォーマンスの悪い方法なのだ。

「いいね!」は生産も変えた。
ボーカロイドに歌わせるためにPたちが何十時間も費やし求めるのは金銭ではなく「いいね!」だ。

他者からの承認欲しさに人は時にバカげた行動もする。
安易に「いいね!」を得るために、全裸で牛丼屋に入ってその様子をアップしたり、「オレも昔は悪だったんだぜ」的な言動をブログに書いて炎上したりする。
「いいね!」が消費を萎縮させ、「いいね!」が社会を変容するわけだ。

ジャスティン・ローゼンスタインは現在、ダスティン・モスコヴィッツとともにアサナという会社をやっているが、彼と彼のチームが作り上げた「いいね!」ボタンとその影響は、将来経済学や社会学の教科書に載るだろう。
それくらいインパクトのある発明だとぼくは思っている。

現在ぼくが心配しているのは、「いいね!」を上回る破壊力を持つ最終兵器だ。
ズバリ言えば匿名の「やだね!」ボタンである。
社会への破壊力が大きすぎるのでおそらくまだ封印されているのだろう。
もし将来ザッカーバーグが何もかも嫌になって、「もうどうにでもなぁ〜れ」という心境になることがあったら、彼は悪魔の封印を解くのだ。

201X年、地球は「やだね!」の炎に包まれる。
海は枯れ、地は裂け、全ての生命体は絶滅したかに見えた。
自分のコメントに無数の匿名の「やだね!」が付き、人々は生きる希望を失うだろう。
そんな時に、胸に七つの「いいね!」ボタンを持つ男が救世主として現れるかは、いまだ謎のままである。
(facebook 9月7日を再掲)

 

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45