セレンディピティの捕まえ方(再掲)

「数えてみる」「書いてみる」「変えてみる」。
何かに疑問や問題意識を持ったときには、そんな三段階を経るとよいという。
出典は探し中だが、アメリカの医師が病院改革について書いたものの中にあった話だった気がする。

例えば、「軽い病気でも大病院に行く患者が多いために、大病院が本来の役割を十分に果たせない」という問題意識を持ったとする。
このままではあまりに感覚的過ぎるので、まず「数えてみる」。
軽い病気でも大病院に行く患者が多すぎるというが、それでは「軽い病気」の患者は一日に何人いるのか、数えてみる。
それからその「軽い病気」の人は全体のうち何パーセントを占めるのかも計算してみる。
実際に数える作業をしてみると、今までスルーしてきたいろいろな課題が表面化する。
「軽い病気」をどう定義するか、大病院というのはどれくらいの規模か、「本来の役割」とは何か、「多すぎる」というがいったい何人だったらちょうどいいのか。
感覚的で印象論的なふわふわした茶飲み話から問題解決を志向した議論に昇華するには、こうした「数えてみる」というファーストステップは避けて通れない。

そんなことを電車に乗りながら考えていたら、ふと吊り革が目に入った。
今の今まで気づかなかったが、この車両の吊り革、横一列に並んだなかに、長いものと短いものが混じっている。
じっと見ているうちに、なんでわざわざそんなことをするのかという疑問が浮かんだ。
同じ長さで揃えたほうが見栄えもいいし、コストだって安いだろう。
必ずなにか理由があるはずだ…。

というわけで、さっそく数えてみることにした。
まず、長いシートの前の吊り革だが、向かって左から短長短短短長短短長短となっている。
全体の30パーセントが長い吊り革である。
それでは一車両にはいったい何本吊り革があるのだろうか。

さっそく端から端まで数えてみると、片側58本あり、そのうち11本が長い。
しかしそれ以外にも吊り革がある。
短軸と平行に3×14本の短い吊り革が存在する。
つまり一車両に158本吊り革があり、そのうち22本が長い。
約14パーセントが長い吊り革ということになるが、これはなにか人間工学的な理由に基づいているのだろうか。
人口あたりの小柄な人の割合などを加味した黄金比なのだろうか。

電車のなか、謎は深まるばかりだが、案外、
「長い吊り革?あんなのは飾りです。偉い人にはそれがわからんのですよ」というのが正解なのかも知れない。
(FB 2013年9月6日分を再掲)