「病院が無くなると医療費と死亡率が下がる」は本当か(R)

尊敬するH先生の教えに、「物事は静止画で見るな、動画で見よ」という言葉がある。
時間軸に沿ってはいるが飛び飛びで恣意的に切り取られた事象だけ見ていると、真の因果関係を見失い、間違った結論を信じ込む羽目になりかねない。
例えばこんなふうに。
財政破綻したY市では総合病院が閉鎖され、有床診療所だけになった。その結果、日本人の三大死因の『がん』『肺炎』『心臓病』の死亡率はすべて下がり、高齢者の年間医療費も2割近く下がった。病院があると、かえって死亡率が上がるのだ」という話があるベストセラー作家の本に書いてあった。
「総合病院閉鎖」の静止画と「三大死因の死亡率減少」の静止画だけ見れば、病院があると住民の死亡率が上がるという結論に騙されてしまうかも知れない。...
しかし、物事を動画で見れば、その二つの事象の間に起こったはずの、総合病院が閉鎖されそれまで受けられていた人工透析が受けられなくなったために泣く泣く別の街に引っ越していった人の姿や、入院する場が無くなったために別の街のホスピスに転院していった末期がん患者の姿が見えてくるかも知れない(現地で裏をとったわけではないので市の名前はイニシャルにした)。
そりゃあ死亡率も医療費も下がるはずだ。

誰かがでっち上げたニセの因果関係と強引な結論に騙されるのが嫌なら、もっともらしく提示された二枚の静止画の間に隠された動画に目を凝らさなければならない。
そのために、神は人間に想像力を与えたもうたのだ。

 

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