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紀里谷和明「日本では内戦が起きてる」発言に思う~「シカシ人間」のテロリスト化

映画監督、紀里谷和明(公人なので敬称略)のインタビュー記事が広く読まれている。

spotlight-media.jp

目を惹かれるものの一つがこの部分。
<断言してもいいけど、いま日本国内では内戦が起きていると言えますよ。
どういうことかというと、“がんばって行動する人たち”と“しないヤツら”の内戦。“何かに情熱を傾ける人たち”と“それをバカにするヤツら”の内戦。インターネットが普及して以降、ここ10年くらいに起こった日本の衰退は、“ヤツら”のほうに耳を傾けすぎてしまったことによる衰退だと思いますね。

これをしたら、なんか嫌なこと言われるかもしれない、デメリットがあるかもしれない、炎上しちゃうかもしれない…。そうやって耳を傾けすぎて、姿の見えない第三者の言いなりになってる。>(記事より)

興味深いのは、紀里谷氏は『がんばって行動する人たちをバカにするヤツら』が急に出てきたというふうにはとらえていないということだ。
そう、『がんばって行動する人たちをバカにするヤツら』は昔からいたのである。

 

アリストテレスは言った。
「To avoid criticism, do nothing, say nothing, be nothing./批判されたくなければ、何も言うな、何もやるな、何者にもなるな」。

カレル・チャペックは1934年に、「シカシ人間」について書いている(『いろいろな人たち』平凡社ライブラリー1995年 p.125-129)。

「シカシ人間」は、あらゆることに「しかし」と言う。

あなたが道を渡れず困っている老婆に手を貸してあげたとする。

「シカシ人間」は言う。「いいことをしたと思ってるんだろう。シカシ、困っている老人はほかにもたくさんいるんだよ」。
あなたが悩める若者について前向きな取り組みをしたとする。
「シカシ人間」は言う。「何人かの人を助けることはできるよ。シカシ、社会問題はまったく解決されないじゃないか」。

チャペックはエッセイをこう結んでいる。
<「シカシ人間」たちは、接触するすべてのものを台なしにする。この連中にはただ、自分たちの「しかし」しか残らない。神よ、われらを「シカシ人間」たちから守りたまえ!>(上掲書 p.128)

 

そうした「がんばって行動する人たちをバカにするヤツら」、「シカシ人間」たちは昔からいたとすると、昔と今の違いは何か。そう、インターネットである。
過激な破壊的思想を持った者たちが武器を持つとテロリストと化す。
現代の「シカシ人間」たちの武器はインターネットだ。現代日本で起こっているのは「内戦」というよりは「シカシ人間」たちによる「心のテロ」なのだ。

 

テロが恐ろしいのは直接的な破壊行為・殺戮行為に加えて、恐怖心そのものが与える社会全体への影響である。テロを恐れて人々は萎縮し、日常生活を送れなくなる。

<いまや、少数である“ヤツら”の攻撃が10年かけてネット上を飛び出し、社会全体にボディブローのように効いちゃってる。テレビでもクレームや炎上を気にしてやりたいことや面白いことができないし、会社の会議の席でも思ったことが言えなくなってる。笑われるんじゃないか、変な質問だと思われちゃうんじゃないかって。>(紀里谷氏インタビューより)

「シカシ人間」たちによる「心のテロ」に対し、どう対峙すべきか。「心のテロ」は抑止できるのか。


敵国による攻撃やテロの抑止には二種類ある。拒否的抑止と懲罰的抑止である。
拒否的抑止とは、相手がやりたくても物理的にそれができないようにすることであり、テロであれば目標施設に近づけないような防御策をとることだ。
懲罰的抑止とは、テロリストや敵国が、割にあわないと思うほどの報復や懲罰を加えることである(防衛大学校安全保障学研究会編著『安全保障のポイントがよくわかる本』亜紀書房 2007年 p.140-150)。

「シカシ人間」たちをインターネットにアクセスさせないという、拒否的抑止は困難だ。インタビューによれば、紀里谷氏はtwitterで悪口を言ってくる人に対しきっちり言い返すという。紀里谷氏流の懲罰的抑止ということであろう。

「シカシ人間」たちによる「心のテロ」もまた、100%未然抑止することはできない。テロの場合、次に必要になってくるのは「被害管理」である。

被害管理とは、万一テロが起こったときに関係機関が連携して被害者の救済を行い、被害の拡大を防ぐことである(前掲書p.146)。
具体的には「シカシ人間」による「心のテロ」で心折れた「がんばって行動する人」がいたら、愚直に励ますということだろうか。
一歩進んで、「がんばって行動する人」たち同士で前持って積極的に連携し、SNSなどを使って互いのがんばっている姿を見せあい、刺激しあってモチベーションを高め合うのもよいだろう。

 

こじらせたら「意識高い系」「リア充」って言われそうだな、シカシ。

 

 

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