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胃カメラに思う(R)

患者さんに胃カメラの話をしていたら、A先生のことを思い出した。
A先生は大先輩で、80代の現役医師である。
元気いっぱいのA先生は、お会いするたびにこんな話をする。

「若いころには、大学で胃カメラの研究をやっていたもんだ。
そのころの胃カメラといったら鉄のまっすぐなパイプのようなもので、直達鏡といったな。
口から食道、胃が直線にならぶような格好を患者さんに保ってもらうかが勝負だった。
患者さんが動かないようにしっかりおさえておくのもわしたち若い医者の仕事だったな」
A先生は懐かしそうにそんな話をするが、今から思うと野蛮な話ではある。
刀を飲み込む大道芸人みたいな話だが、実際、1868年、ドイツのクスマウルらが開発した世界ではじめての胃カメラ大道芸人を対象にしていたそうだ。
オリンパス社HP「内視鏡の起源」:http://www.olympus.co.jp/jp/corc/history/endo/

しかしまあ、そうやって医学は発展してきたわけで、先人の苦労の上に現代医療がある。
そんな話をしていたら年上の看護師さんがこう言った。
「そういえば、私が仕事始めたころ、ベテランの先輩看護師さんがよく言ってました。
『今の若い子たちはいいわね~。私の若いころは使い捨ての注射器なんてなかったから、使った注射針を煮沸消毒して、そのあと磨いて研ぐのが看護師の仕事だったのよ。
うまく研げないと仕事できないってレッテルを貼られたから、みんな必死で注射針を研げるように練習したのよ』」
いくら煮沸消毒をしようが完全に使いまわしなわけで、聞いてるだけで不安になるが、昔は日本中、世界中の病院でそうだったのである。
(予防接種に関する厚労省資料 http://www.mhlw.go.jp/…/2r9852000002x3…/2r9852000002x32u.pdf など) 

今の感覚のまま医学の歴史をふりかえると、当時はとんでもないことをやっていたんだなあとびっくりするばかりだ。
麻酔が発達する前は手術の前には酒をのませてべろんべろんにさせて、手足を大男に押さえつけさせて手術したそうだし、手術の前に手を消毒するようになったのはたかだか19世紀半ばのこと。
そのころはお産の手術後にばい菌が入ってたくさんの妊婦が産褥熱で命を落とした(梶田昭『医学の歴史』 講談社学術文庫 2003年 p.258、標準外科学 第8版 医学書院 p.32など)。
CTやMRIができるまえは脳の中(正確には脳室の中)に空気を入れてレントゲンを撮る「気脳写」というので脳の病気の診断の助けにしていた。大学病院で働いているころ、古いレントゲン写真の整理をしていたら資料袋に「気脳写」の文字を見つけて妙に感動したことがある。
ちなみにCTの開発は1972年とのこと(標準脳神経外科学 第7版 医学書院 p.82)

当時は最先端の技術でも、後世から見ると信じられないようなことをやっているのはどの世界でもあることである。
現代人は先進技術はここまで来たなんて胸を張っているけれど、
100年後の子孫は、「21世紀の人間って生身の体で生きてたんだって。野蛮だね~。
アンドロメダまで行って機械の体をもらってくればよかったのにね」
なんて語りあっているのかもしれない。
(FB2013年10月5日を再掲)

 

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