インフルエンザ濾胞と我らの足もとに眠るもの

最近のマイブームはインフルエンザだ。
自分がインフルエンザにかかっているということではなく、インフルエンザの患者さんの診察をするのがとても待ち遠しいのだ。きっかけは同僚のM先生が教えてくれた、「インフルエンザ濾胞(ろほう)」である。

 

インフルエンザのかかりはじめというのは、ふつうの風邪と見た目の区別がつきにくい。

咳やくしゃみ、鼻水がない(少ない)わりに熱が高いとか、体の節々が痛むとか、いつもの風邪と違う感じがするという自覚とか、医者が「インフルエンザっぽいな」と思う症状はいろいろある。しかし結局のところ、その患者さんがインフルエンザかどうかを判別するには、鼻の奥に棒を突っ込んで粘液をとってきて迅速検査キットで調べるしかない。と、思っていた。

しかし検査以外にもその患者さんがインフルエンザかどうか一目で分かる方法があるという。それが「インフルエンザ濾胞(ろほう)」だ。

患者さんの喉の奥を見ると、インフルエンザならごく初期から、イクラのような直径2㎜程度のふくらみ(濾胞)が出現しているのだという(①、②)。
恥ずかしながら「インフルエンザ濾胞」の事を知ったのがつい先日で、知ってから実際にインフルエンザの患者さんを診察したのはまだ一回だけ。だが、たしかに喉の奥にイクラのようなふくらみが確認できた、気がする。

 

報告者の宮本先生は茨城県の開業医だ。大学病院を辞めて開業してから、毎年たくさんのインフルエンザの患者さんを診るうちに、「インフルエンザにも何か特有の所見があるのではないか」と思うようになったという(③)。そこで見つけたのが「インフルエンザ濾胞」だ。

インフルエンザという病気が認識されてから2000年以上経つ。これまで何億人ものインフルエンザの患者さんを、何千万人の医者が診察してきた。だが、今まで誰も喉の奥にふつうの風邪と違うもの、インフルエンザ濾胞が出てくることに気づかなかった。それを見つけて報告したというのは本当にすごいことだ。

誰も通らない道を初めて歩んで何かを発見する人は偉大だ。だがそれと同じくらい偉大なのは、誰もが当たり前に通っている道を丹念に調べて、皆が見落としていた何かを見つけ出す人だ。

 

ゴールドを求めてはるか遠くの未開のフロンティアに旅立つのは素晴らしい。

しかしもしかしたら皆がさんざん踏み荒らした我らの足もとにも、まだ何か眠っているかもしれないのである。
(続きは↓)

 

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①宮本昭彦ら「咽頭の診察所見(インフルエンザ濾胞)の意味と価値の考察」日大医誌 11-18 2013年

②Miyamoto et al.“Posterior Pharyngeal Wall Follicles as Early Diagnostic Marker for Seasonal and Novel Influenza" General Medicine 51-60. 2011

https://www.jstage.jst.go.jp/article/general/12/2/12_2_51/_pdf

咽頭の視診所見でインフルエンザを診断する [診内研より476] - 医科 - 学術・研究 | 兵庫県保険医協会

 

 

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