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「ココナツオイルが認知症に効く話」で聞く話2ーバイアスとブラインド

「テレビでやってたんだけど、ココナツオイルが認知症に効くってほんとですか?」。

結構長い間聞かれ続けている質問がこれだ。

それに対して誠心誠意答えるとしたら、

現時点で認知症に絶対効くという証拠はない、というのが最善の答えだ。

 

「ココナツオイルが認知症に効くって本当?」と医者に聞いた場合のシュミレーションを前回してみた。

hirokatz.hateblo.jp

おそらく医者から返ってくる答えは

「エヌが少ないからねー」
「バイアスがねー。ちゃんとブラインドで確かめてないでしょ」

「人間の体って複雑だからね」

というところであろう。

エヌはnで、ナンバーの頭文字。
研究対象となった人数のことで、nが少ない研究というのは最終決定打にはなりにくい。
仮に10人を対象にいい結果が出たとしても、たまたまかもしれないのだ。
nが少ない研究というのは、仮説を打ち立てたり、自然現象のなんらかの傾向を手探りで見つけ出すトライアルとしてはよいけれど、最終結論を出すには不向きだ。

人間は個人差も大きいので、実験参加者の個人差を打ち消すには十分に大きなnで研究しないと最終結論は出せない。
余談だが、「○○茶が××に効く」とかという特定保健食品(トクホ)の広告を見かけたときには目をこらして、実験参加者の人数=nを確認するとよい。

たいていの場合、「20人の人に○○茶を飲んでもらいました」などと書いてある。これはn=20ということで、これくらいのnではとてもとても最終結論を出すには少なすぎる。
繰り返しになるが、nが小さい(少ない)実験がダメと言ってるわけではまったくない。研究の「アタリ」をつけるにはまずはnの小さい実験からやってみるのが一番だ。

ただ、最終結論を出すにはnが大きい実験でないと信ぴょう性が低いということだ。

2番目の「バイアスがねー。ちゃんとブラインドで確かめてないでしょ」について説明したい。
バイアスはbiasとつづり、「偏り」のことだ。
研究者の思いこみや思い入れというのは無意識のうちに結果の解釈に影響を及ぼす。
ネットレベルの知識だが、ココナツオイルの話は、アメリカの女医さんが認知症のだんなさんにココナツオイルを飲ませたら認知症がよくなったという話のようだ。
自分のだんなさんの病気がよくなってほしい、という思い入れが、結果をよい方向に解釈しすぎていないか、というのが「バイアス」の問題だ。

また、薬にはプラセボ効果というものがあり、「これは効く薬だよ」と言って飲んでもらうと何パーセントかの人は小麦粉を飲んでも病気が治ってしまうことがある。
だから、新薬の実験では、実験参加者を2グループに分けて、片方のグループにはニセの薬(プラセボ)を飲んでもらい、もう片方のグループには本物の薬を飲んでもらう。
当然、実験参加者には自分が飲んでいるのがプラセボなのかホンモノなのかは秘密だ。
秘密にしておいて、それでもなおホンモノの薬を飲んでいるグループのほうが段違いに病気がよくなっていてはじめて新薬が有効という結論が出る。
実験参加者に、プラセボかホンモノか教えないで効果を確かめることを「ブラインドで確かめる」という。
ココナツオイルの効果を本当に検証したかったら、ココナツオイルを飲んでもらうグループと、プラセボの別のオイルを飲んでもらうグループを作って、本人たちにはどっちのオイルを飲んでいるか告げずに調べなければならないのだ(ダブル・ブラインドについては省略)。

そうは言っても、科学も医学も永遠に発展途上のものだ。
今わかっていることがすべてではないし、もしかしたら何千分の一の確率で、将来ココナツオイルが認知症に有効と証明されるのかもしれない。

あくまでも、現時点では、ココナツオイルが認知症に効くという十分な証拠はない、というのが正しい立ち位置だと思う。

うかつに「科学的にありえない」なんて断言してしまうと、太宰治が患者でやってきたときに<科学精神とかいふものも、あんまり、あてになるものぢやないんだ。定理、公理も仮説ぢやないか。威張っちゃいけねえ>(『お伽草紙』より)と言われてしまう。もし万々が一ココナツオイルの有効性が将来証明されたときには<恥の多い生涯を送って来ました。>(『人間失格』より)と言わなければならなくなるかもしれない。
ああ、生まれてすみません(『コージ苑』より)。

(続く)

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