東北医科薬科大学医学部入学式のニュースに思う(R)

東北医科薬科大医学部の入学式が先日行われたとのことで、2013年に書いたものを再掲

 

(以下再掲)

小学生になって皆でカチャーシー(沖縄の踊り)を踊る夢を見て早めに起床したら、東北などに新しく医学部をつくるのだというニュースを見つけた(2013年10月時)。

 

医療崩壊」といわれはじめたころから、医師不足の地域に医学部をつくる、というのが解決策として語られるようになった。全国医学部長病院長会議は明確に反対していたり様々な立場や意見があるが、ぼくの立ち位置としては「作るのはいいけどコストパフォーマンスが悪いよ」というものである。

 

経済学には「ティンバーゲンの定理」というものがあるそうだ。
ティンバーゲンの定理」というのは、「N個の独立した政策目標には、N個の独立した政策手段が必要である」というもの(飯田泰之著『ゼロから学ぶ経済政策』 角川oneテーマ21 2010年 p.51ー52。 付記:経済学の素人であるぼくには大変な良書。ぼく自身は著者よりもうちょっと政策や政府というものに期待しているが)。
医学部新設の話とからめていうと、「地域の医師不足」と「メディカル・ツーリズム」、「医師の育成」、「医学教育の質」という複数の目標を、「医学部新設」という1個の手段で解決することは困難、ということだ。
世の中、一石二鳥なんてそうそうない、というわけで。

 

もう少し正確に言えば、できないこともないかもしれないけれど、「地域の医師不足」は「地域の医師不足」で、「メディカル・ツーリズム」は「メディカル・ツーリズム」で、それぞれ別建てで政策を打ったほうが、かかるコストは最少になるはず(ここらへんは「マンデルの定理」のほうがあてはまりそう。上掲書p.52-53)。

もし、「地域の医師不足」の回答として医学部新設をとらえていて、医学部の卒業生を地域医療の担い手として考えているならば、残念ながら大変的外れである。

 

今さらいうのも陳腐だが、2014年に医学部をつくったとしても、2014年入学の医学生が卒業するのが2020年で、初期研修がおわるのが2022年。医師がそれなりに一人で一人前の仕事ができるようになるには初期研修のあと、5~10年(これでも最低限だと思う)かかるので、それなりに新設医学部卒業の一人前の医師が育つのは最速で2027~2032年ということになる。


2013年現在の地域の医師不足の回答がでるのが2027年から2032年ということでよいならば、「地域の医師不足」の回答として医学部新設をとらえてもよいかもしれない。また、医師として語るのはバカらしいくらい常識だが、医学部をつくったとしてもそこの卒業生がその地域に残るとは限らない。

 

文部科学省の調査では、医学部卒業後、同じ県内に定着する医師の割合は平均でも49.1%。震災前のデータだが、東北は軒並み定着率が40~45%である。
http://www.mext.go.jp/…/__icsFiles/afieldfile/2009/05/11/12…

もし本当に税金を有効に使って「地域の医師不足」という目標を少しでも達成しようというならば、もっとほかにやりかたがあるはずだ。働きざかりの年代の中堅医師が地域の中核病院からどんどん「撤退」している現状を放置したまま医学部をつくっても、穴の開いたバケツに水を入れるようなものだ。
しかも新しく入れる水の半分以上がバケツの外にあふれるという始末。

 

今ある公的病院(公<立>病院ではなく公<的>病院。設立母体がどうであれ、救急とか小児とか公的医療をやっている病院)にしっかりその分の税金を使ったほうがよっぽどコストパフォーマンスが高い仕事になると思うが、「○○センセイのおかげでオラの町にも医学部ができた!」というものが達成すべき政策目標であるならば、たぶん話は別なんだろう。
(FB2013年10月1日を再掲)