ラスト・サムライ・イン・ハバナーアメリカ・キューバ国交回復に思う。

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キューバではね、『ラスト・サムライ』は大人気よ。あっちでは『ウルティモ・サムライ』って言うんだけど。

テレビで『ウルティモ・サムライ』が放映される日には、道から人がいなくなるの。たぶん8割の人が観るわね」

深夜のクラブの片隅で、ハバナから来たばかりのその女性は言った。彼女はダンサーで、サルサを教えに日本に来た。友達のところに数週間いるという。

ブラックライトに褐色の肌が照らされる。

 

「コーヒーをかき混ぜるときにはね、こっち向きに回さなきゃだめよ」

そういうと彼女は右手に持ったスプーンを時計まわりにゆっくりと回した。
コーヒーに、ミルクが溶けてゆく。
「回しながらね、こう言うの。エスト…エスト…エスト…。こっちへ…こっちへ…こっちへ…。

こうすると幸運を自分のほうに引き寄せられるの。
こっち向きはダメ」

そう言うと、彼女は右手に持ったスプーンを反時計回りに回した。
「ほら、こうするとね、自分の中の幸運がどんどん外へ逃げちゃうでしょ」
わかるようなわからないような。

 

そんな会話からずいぶん月日が経った。
映画『ラスト・サムライ』(スペイン語だと『ウルティモ・サムライ』だ)がキューバでそれほどの人気だとは、いまだにちょっと信じられない。ウラをとっていないので、本当なのか僕の記憶違いなのかはわからない。
ただもし『ウルティモ・サムライ』が本当にキューバで大人気だったとすると、明治新政府に滅ぼされ、なにものかに殉じたサムライたちの話をハバナの人たち、中でも老いたる革命家たちはどんな気持ちで観ていたのだろうか。ゲバラはいまやポップなアイコンとなり、カストロは表舞台から身を引いた。友よ、革命的情熱とともに抱擁を。

もっとも、日本史を踏まえて『ラスト・サムライ』を観ると時代考証などはめちゃくちゃなんだそうだが。

2015年夏、54年ぶりにキューバとアメリカは国交を回復した。
今はまだ昔ながらの姿をとどめているキューバだが、これからスターバックスマクドナルドやケンタッキーフライドチキンが次々と建てられて行き、古いアメ車も次第に新しい燃費のいい車やハイブリッド車に置き換わっていくのだろう。なにしろハバナの排気ガスはひどいからな。
アメリカンでグローバルスタンダードなポリティカルコレクトネスもどんどん入ってきて、海沿いのマレコン通りとmariconをかけたマチズモな性差別ギャグもだんだんと鳴りをひそめていくかもしれない。
いいところも悪いところもひっくるめて、これからキューバはどんどん変わってゆく。部外者であるぼくは、ただそれをモニターを通して時々知るだけだ。

 

アメリカとの国交回復によって、これからキューバもよくあるふつうの発展途上国になっていくのだろう。
今から数年後、よくあるふつうの発展途上国になったハバナの街でも、『ウルティモ・サムライ』は昔と変わらず人気のままなのだろうか。

 

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