なぜ週刊現代特集は10年時代遅れかー『医者に出されても飲み続けてはいけない薬』『「有名な薬でも医者の言いなりに飲み続けるのは危険です!』の3つの大間違い

週刊現代最新号では『大反響第2弾!現役の医者たちが次々に証言「有名な薬でも医者の言いなりに飲み続けるのは危険です!』という特集をブチあげた。

表紙で取り上げられているのはデプロメール抗うつ剤)、クレストール(高コレステロールの薬)、ブロプレスとオルメテック(降圧剤)、ジャヌビアとエクア(糖尿病の薬)、アリセプト認知症の薬)、イグザレルト(抗凝固薬)だ。

前回の特集『ダマされるな!医者に出されても飲み続けてはいけない薬』を載せた6月11日号がよく売れたらしく、スピーディなことである。こっちは前回の袋とじもまだ開けていないというのに。

 

診療現場はこの特集のせいで大変な影響を受けている。

「クレストール飲んでいて大丈夫ですか」「アリセプト飲むと死ぬってほんとですか」「怖いから薬やめたい」とおっしゃる患者さんがあとを絶たない(本当)。

医療現場に迷惑かけようが何しようが雑誌が売れればそれが正義なんだろう。しょうがない、資本主義だからね。

だがそっちが資本主義で来るならこっちはシフォン主義で対抗するだけ、LOVEずっきゅんでコントレックス箱買いだ!!(既読スルーしてください)

 

実際の記事を読むと「アリセプト飲むと死ぬ」なんてことは一言も書いていないのだが、新聞に載った広告だけを見て動揺する患者さんも多く、思わず「見出しだけで判断せずに実際の本文も読んで判断してください」などと口走ってしまい、期せずして週刊現代の売り上げに貢献してしまいそうになる。週刊現代の勝ち。悔しいので慌てて「近くの図書館とかに置いてありますよ」と付け足しておいた。

 

さて、週刊現代の特集に振り回されてばかりの一医者のぼくであるが、先週今週と繰り返し記事を読んで出した結論は、「週刊現代の特集は10-15年時代遅れだ」というものだ。特集で小さな間違いはパラパラとある。

例えば、<製薬会社の「心の風邪」キャンペーンに見事にひっかかり、ちょっとした心理的不調で「自分はうつ病かもしれない」と思い込む。そして神経内科に通院する人が増えたというのが本当のところだろう。>(6月18日号 p.188~189)とあるが、「自分がうつ病かもしれない」と思い込んだ人が通院するのは神経内科ではなく心療内科か精神科である。ぼく自身が神経内科の医者なのでこれは断言できる。お金を取って売る記事を執筆するときには何度も推敲したりすることをお勧めしたい。

小さな間違い以外に、この特集では3つの大きな間違いをおかしている。

薬についての間違い、患者さんについての間違い、問題設定の間違いの3つだ。
この3つの間違いゆえに、特集は10-15年時代遅れのものとなってしまっている。

以下に詳しく述べる。

 

週刊現代の特集が10年時代遅れの理由その1.薬についての間違い

まず有権者に訴えたいのは、「すべての薬には副作用があり得る」ということ(『怒り新党』的表現)。薬は人体に何らかの影響を与える物質で、それが良い影響ならば「薬の効果」、悪い影響なら「薬の副作用」だ。すべての薬には必ず副作用を起こす可能性があり、クレストールで横紋筋融解の副作用を起こしうることは事実だ。

「すべての薬に副作用があり得る」ということをしつこく述べておかないと、いつの間にか特集に対する反論が、「医者は薬の副作用を否定している」とすり替えられてしまうから気を付けないと。

しかし副作用のリスクがつきものの薬だが、一方で体に良い影響=薬の効果についても言及しなければフェアではない。

薬を飲むメリットもあればデメリットもある。デメリットに気を付けながらメリットを最大限引き出すのが人間の知恵だ。

何度でも言う。

自動車は一定の割合で事故を起こす。包丁やナイフだって使いかたを間違えれば人を殺す。

だが、事故に気をつけ、使いかたを間違えなければ自動車も刃物もたくさんのメリットを人間の生活にもたらす。薬も同様だ。

「薬は使いかたを間違えると人が死ぬ。だから医者が薬を使おうとしたら止めさせろ」という記事は人の目を引くが、「手術のメスは使いかたを間違えると人が死ぬ。だから医者がメスを使おうとしたら止めさせろ」という記事が出てもだれも取り合わないだろう。あまりにアホらしいからだ。メスも薬も必要だから気をつけて使うだけで、メスも薬も使いよう、というだけの話だ。

 

特集の中で繰り返されている薬についての大間違いは、薬は<医者に言われて一度飲み始めるともうやめることができず>(6月18日号 p.184)とか、<飲み始めたら半永久的になることがわかっている>(同 p.185)という認識が繰り返し出てくることだ。

<飲み始めたらもうやめることができない>薬ってなんだ。麻薬か。週刊現代は、清原の取材をしすぎたのではないか。
実際には、大きな問題が起きれば薬はやめられる(というかやめなければならない)し、そうでなければそもそもこの週刊現代の特集自体が矛盾したものになる。せっかく「医者に出されても飲み続けてはいけない」と警鐘を鳴らしているのに、「特集を読んで飲み続けるのをやめようとしてるんだけど、この薬、どうしてもやめられないんですよ」と読者に言われたらどうする。アヘン窟じゃないんだから。

週刊現代が「飲み続けるのをやめなさい」と言えば読者はそれを信じて薬を飲むのをやめてくれるという信念を持って記事を書いているのに、「薬というのは飲み始めたらもうやめることができない」と書くのは論理矛盾だ。「薬というのは飲み始めたらやめることができない」という認識なら、何を言っても無駄ではないか。岸和田に戻れば、クスリもやめられるかもしれないじゃないか。閑話休題

大きな副作用が起これば原則的にその薬はやめなければならない。もっと大きな副作用が起きたら取返しのつかないことになるから。

また、薬を飲むのをやめることで引き起こされる病気のリスク増大、薬をやめるデメリットを責任もって100%引き受けると了承していただけるのなら、医者のほうも無理やり薬を飲ませるつもりなんかない。そんな押しつけがましい態度、パターナリスティックなやりかたは、医者の世界では10年以上前に滅んだ(理由は後述)。いいか悪いかは別として、メリット・デメリットを説明したうえであとは自己責任、というのが今の医者の主流のやりかただろう。

「ダマされるな!」と週刊現代は訴えるが、誰もダマすつもりなんかないのだ。

夜も更けた。
週刊現代の特集が10年時代遅れの理由のその2、3は明日か明後日にでも。

↓昨年出版した本です。得する医者のかかりかた、薬とどう付き合うか、役に立つ医療情報の収集の仕方が満載で、いざというとき必ず役立ちます。宣伝で申し訳ありませんがしょうがない、資本主義だから。

 

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