なぜ週刊現代特集は10年時代遅れか3ー『医者に出されても飲み続けてはいけない薬』『「有名な薬でも医者の言いなりに飲み続けては危険です!」』の3つの大間違い・後編

週刊現代特集『医者に出されても飲み続けてはいけない薬』シリーズについて何度もしつこく書いてきた。

なぜこんなにもしつこくこの特集について書くかというと、フラッシュバックのせいだ。2000年代前半の悪夢のフラッシュバックが、しつこさの原因である。

今から15年ほど前、2000年代前半、日本の病院や医者、医療は大逆風だった。

テレビや新聞、雑誌には連日のごとく病院バッシングに医者叩き、公的医療悪玉論が吹き荒れた。

医療ミス、ドクターハラスメント、自治体の赤字は病院のせいなどなど、まるで医療者は悪魔の手先のごとく叩かれた。
テレビ番組では病院に行けば必ず医療ミスと隠ぺいにあうとでもいうような医者叩きバラエティがあふれ、司会の人気お笑いコンビは「医者は必ず医療ミスをするから、医者の診察のときはまず弁護士の知り合いがいると言え」と煽った。今ではそんなことも忘れたように、「薄毛は病気、お医者さんに相談だ」とCMをやっている。商売繁盛でなによりなことだ。
知人の医者はそのころ、「新聞は片方で医者や病院を叩き、もう片方であやしげなアガリクスとかの広告を載せて儲ける」と吐き捨てるように言った。
そうした医者叩き・病院叩きの世論の後押しを受け、2004年に手術中出血多量のために患者さんが亡くなったことで、産婦人科医が逮捕されることになる。大野病院事件だ。

ぼく自身が医者のはしくれであり、上記の経過について冷静かつ完全に中立的な立場で論ずることは少々難しい。善悪や価値の判断は後世の歴史家にまかせたい。
週刊現代の特集についてしつこく絡み続けているのは、2000年代前半の医療に対する大逆風と同じような嵐の萌芽を感じているからである。

当事者として感じることは、2000年代前半を境にして、患者さんと医療者の関係性はがらっと変わってしまったということ。

どんなに患者さんのためにがんばったとしても、結果が悪ければ最悪逮捕される。
そんなふうなトラウマが、医療者の心に残った。
かつてのような、患者さんのためを思って医者として上から目線で治療方法を決めるという姿勢は消えた。
こうした保護者的な態度・考えかたをパターナリズム(Paternalism。語源はラテン語の父paterから)という。医療界ではパターナリズムは姿を消し、変わって十分な説明をしたうえで患者さん自身に治療法を決めてもらうというやりかたが主流になった。
だから、今の医者の多く、特に若い医者から中堅どころまでの医者は患者さんに薬を出したとしても「言いなりに飲み続け」させることはしない。
薬を飲むことのメリットとデメリットをドライに説明し、患者さんが飲まないのならそれは自己責任というやり方が多いはずだ。
週刊現代特集が10~15年時代遅れであるとする第2の理由はこれである。

 

今どき、患者さんを「言いなり」にさせようとする医者はいないし、患者さん側だってそこまで医者を信用していない。面と向かって医者に言わなくても、薬の飲み方を自己調整している患者さんはゴマンといる。

 

週刊現代特集が10年時代遅れという第3の理由は、その手法だ。
何度でも何度でもいうが、すべての薬に副作用のリスクはある。

だがだからといって、すべての薬を目の敵にするのは間違いだ。

 

また、この特集の通奏低音として響き続けているのは、医者全体や現代医療に対する不信感だ。
医者が聖人君子だなんて思わない。すべての業界がそうであるように、医療界もたくさん問題を抱えている。そのいくつかは病巣と呼んでもよいようなものかもしれない。
しかしその業界が病巣を抱えているからといって、その業界すべてを悪として叩く手法は百害あって一利なしだ。


思えば今から10~15年前、マスコミはいわゆる権威的な業界をかたっぱしから血祭に挙げた。
エリート官僚を叩き、教師と教育界を吊し上げ、医療界をバッシングした。
だが、その結果、世の中は良くなったのだろうか?


もう一度書く。
ある業界が病巣を抱えているからといって、その業界すべてを悪として叩く手法は百害あって一利なしだ。その手法をマスコミは10年以上前にやって、それぞれの業界の権威をみごとに失墜させた。その結果、官僚育成機関である東大法学部は定員割れし、リスクの高い分野や過疎地域から医者は消えた。社会にはそれぞれの専門家への疑念と警戒心だけが残され、社会の構成メンバー間の相互不信が深まっていった。

叩いた側のマスコミも無傷ではいられなかった。メディアスクラムと我こそは正義といった独善性、無理筋の印象操作が人々に嫌悪され、マスコミはいつしかマスゴミと揶揄されるようになった。

病巣を抱えているからといってその業界を丸ごと悪としてレッテルを貼り、無分別にサンドバックにして完膚なきまでに叩きのめすやり方は、いいことなかったんじゃないだろうか。

ぼくはマスコミやジャーナリズムにおおいに期待している。

あらゆる業界に問題はあるし、自浄作用には限界がある。
社会の中の誰かが領収書や公用車の記録を洗い出し、ホテル三日月まで行っていろいろとウラをとって問題提起しなければならない。
それぞれの病巣を鋭く見つけて抉り出し、社会を健やかにする役目の一端を、マスコミやジャーナリズムは担っていると真剣に思う。だって、ほかに誰もそんなことできないもの。

おそらく社会を構成するすべての業界にそれぞれの病巣はある。内部からは自浄できない場合、それをいち早く見つけ出すのはジャーナリズムの役目だ。
しかし病巣を抉り出すときには慎重に切除する範囲を見極めなければならない。

やりかたを間違えれば、病巣だけでなくその業界ごと致命的なダメージを負いかねないし、それは社会全体の不利益になることもある。

病巣を抱えているからといって、その病巣の持ち主の体ごと滅ぼす医者はいない。

 

週刊現代の一連の特集について、3つの大間違いを論じた。
薬の副作用の認識の間違い、患者さんと医療者の関係性の間違い、アプローチ方法の間違いの3つだ。

明日はまた週刊現代が書店に並ぶ日である(不本意ながら覚えてしまった)。
お読みになる方が、過度に惑わされないように心より祈ってやまない。

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