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夏来たる(R)

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今から二十数年前の大学生のころ、ひと夏ビアホールで働いたことがある。
夕方4時ころ「おはようございます」と言ってタイムカードを押し、夜は終電で帰ってくる生活だった。猛暑の年だけあって忙しかったが、それまで知らなかった世界を垣間見ることができるのは楽しかった。

 

ホール係をやっているとどぎまぎしながらも面白いことに出会う。

二日目くらいに、おばさまグループの注文を受けたときのことは今も時々思い出す。
見よう見まねで注文をとり、ソーセージ盛り合わせだのピザだのの注文を繰り返すと、リーダー格のおばさまがおもむろに言った。
「あ、それとねお兄さん、『チャッピー』一つお願いね」。

チャッピー??
瞬間、こっちは真っ白になる。
なにしろバイト二日めで、店のメニューもうろ覚えだ。
まだ覚えていないカクテルとかだろうか。

 

しどろもどろになりながら、「確認して参ります」とカウンターに聞きにいくが、バイトの先輩もそんなものはないと言う。
大変もうしわけありません、当店チャッピーは置いてないそうなんですが…とあやまると、女ボスは高らかに言い放った。
「あるでしょ、チャッピー。ほらビールをたくさん入れてみんなで飲む、大きな奴よ!」
奥様、それはピッチャーです。

 

まあそんなわけでへっぽこなビアホールバイトだったが、お客さんの生態をじっくり観察できたのは勉強になった。
会計のときに軽やかに「ごちそうさま」と言われると、自分が料理したわけでもないのにちょっとうれしかったりするし、バイトと見ると横柄になる人や、酔っぱらって店員にからむ人なんかを体験すると、自分は決してマネしないぞと心に誓ったりなんかもした。

 

一度、酔っぱらったサラリーマングループでめんどくさい思いをしたことがある。
二十人近い集団で、一人が「おれ、ピッチャーね」と頼むとまわりが悪のりし、
次々と「じゃあおれキャッチャー」「じゃ俺はファーストね」「俺はライト」と続く。
最後のほうになるとポジションが足りなくなったのか、アンパイヤやスコアラーまで注文され、あげくの果てにとうとう「じゃあ俺はクオーターバック」と訳がわからなくなった。てゆうかクオーターバックは野球じゃないし。
若干ひきつり気味の笑顔を残し、僕は注文を告げに厨房に引っ込むのだった。

 

いよいよ夏本番といった感じの今日この頃だが、今晩もどこかのビアホールで、酔っぱらいがチャッピーやクオーターバックを注文しているのだろうか。

 (FB2013年7月9日を再掲)

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