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セミの声を聴くたびに(R)

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セミの声を聞くたびに目に浮かぶのは九十九里浜でも歌舞伎町でもなく、僕の場合は埋め立て地だ。

 

その頃の都知事が博覧会の中止を決めたために、お台場はいつまで経っても更地のまま。誰かがそこに目をつけて、カリブ海からアーティストを呼んできてフェスをやった。
司会は何かっていうと「イエス、インディード」が口癖のジャマイカ人で、缶やビンの飲み物は持ち込み禁止だったので、僕らはボンベイサファイアをペットボトルに入れて凍らせて持ち込んで、ソーダで割って飲んだりした。
ステージではインナーサークルのドラムスが突然倍速のテンポでドラマを叩いたりして、あれはそのころ流行りはじめたジャングルのフィジカル版だったんだろうか。
いやまてよ、インナーサークルじゃなくてビッグ・マウンテンだったかもしれないな。
昼から始まったフェスもいつしか夕暮れになって、夕闇のなかのダイアナ・キングは裸足で歌っていてちょっと綺麗だったな。いや、あれはよみうりランドだったか。


隣でシートを広げていた見知らぬ酔っぱったおニイちゃんたちからおすそわけのプリングルスが回ってきたりして、あれもちょっと素敵だった。ぼくらもおかえしにジンを分けたりした。
シャインヘッドはその夏もう何百回目かの「ジャマイカン・イン・ニューヨーク」を歌わされて気の毒だったけど、それでもやっぱり歌声は澄んでいた。

フェスの終わりのころになると会場のあちこちでサークルが自然発生してみんなで踊って、もしかしたらあれはぼくらの体の奥底に眠っている盆踊り遺伝子のなせるわざなのかもしれないけど、見知らぬ人と一緒にヴァイブスを共有するのは素敵だった。

 

あの日埋め立て地に集まったオーディエンスは、スナック菓子をシェアし、ドリンクを互いにふるまった。むっとする湿り気を帯びた海風をシェアし、降り注ぐ真夏の太陽をシェアし、夕闇を、星空をシェアした。
リズムをシェアし、ビートをシェアし、恥ずかしながら、ワンラブとユニティをシェアした。

 

あれから二十余年、会場だった埋め立て地には、今はコジャレたマンションとオフィスが建っている。

 

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 (FB2015年8月6日を再掲)