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週刊文春『飲んではいけない薬』を読んでー最善の薬の副作用対策とは(R)

「ぼくくらいになるとね、何でも患者さんの前で調べちゃうんだよ」
十数年前、F先生がぼくら研修医に言った。

薬の副作用の話を特集した週刊文春の『飲んではいけない薬』の記事を読んでF先生の言葉を思い出した。
F先生は大変な博学で、どのような病気のときにどういう症状がでるか、あるいはこういう症状が出たらこんな病気の可能性がある、という診断や診察手法についてなんでもご存じである。

 

研修医というのは医者に成りたてだ。そのころは患者さんから質問されたことに答えられないと自分の未熟さに直面させられたような気分になる。
今思えば、患者さんからの質問というのは答えられなければ愚直に調べて身に付けていくしかない。しかし若かりしころは、なんというか病気や治療法についてなんでも知っているのが医者、という思い込みがあったのだろう。だから患者さんの質問に答えられないと非常にあせって物陰に隠れて教科書をひき、さももともと知っていましたよという顔をして付け焼刃の知識を答えたりしたんだと思う。

 

そんななかの冒頭のF先生の言葉で、F先生のような何でも知ってる先生が言うからこそ目からウロコであった。『知るを知ると為し、知らざるを知らざると為せ。これ知るなり/知っていることを知っていると認識し、知らないことを知らないと認識せよ。これが知るということだ』と孔子も言っている(論語 為政編)。


それ以来十数年、患者さんからなにか知らないことを聞かれるたびに「じゃあちょっと調べてみましょうね」といってすぐにその場で本を開き調べるようにしている。
特に「この薬を飲んだけど、こんな出来事が起こった。副作用じゃないでしょうか」などという質問には、「drugs in Japan」という広辞苑や電話帳を数冊分あわせたような本を引っ張り出してきて、患者さんの目の前で調べるようにしている。

 

この「drugs in Japan」には日本で販売されているすべての薬の作用・副作用などが収載されていて、ものすごく分厚く重い。確実に凶器になる。
余談だが、「drugs in Japan」がどれくらい分厚いかを見てもらおうとgoogle画像検索で「drugs in Japan」を検索したら、覚醒剤で捕まった日本の芸能人の写真ばっかり出てきた。そりゃそうだ。ちなみに、「drugs in Japan」には「ヒロポン」の薬剤情報も載っている(本当)。

 

患者さんの目の前で直接「drugs in Japan」を調べる習慣をつけたおかげで、何度も危機を逃れたことがある。
片頭痛の薬、イミグランを飲んだら胸が圧迫されるような感じがあったけど、副作用じゃないですかね」と聞かれたときにも、「頭の薬で胸の症状が起こるかなあ」と半信半疑で調べたらきちんと「1%未満に胸の圧迫感」と書いてあった。


何か月か前から体の動きが悪くなって、自分で寝返りも打てなくなって困ってるんです、という患者さんが来て、他の病院の薬を「drugs in Japan」で一つずつ調べたら、ヘルベッサーという降圧剤・狭心症の薬の副作用に「頻度不明だがパーキンソン症状」が出ると書いてあった。試しに処方医に連絡してヘルベッサーを中止してもらったら、ヘルベッサー中止後数日でみるみる回復したこともある。
ただしヘルベッサーのパーキンソン症状はごくまれな副作用だ。以前に数十人の経験豊かな神経内科医の前でこの話を発表したときにも、ヘルベッサーでパーキンソン症状なんて見たことないという反応だった。

 

薬の副作用を直接患者さんの目の前で調べると「頼りない医者だな」と思われはしないかとも心配したが、意外に好評であるのも興味深い。
「わからないことをきちんと調べてくれるのでかえって安心」と言ってもらったこともあるが、まあ「知らないことを目の前で調べるなんて頼りない」と思う患者さんは無言で次から来なくなるだけなのかもしれないが。

 

この「Drugs in Japan」、分厚くて重いというのはメリットでもあって、スマホ版などはあまり使う気になれない。「質問したらわからないからってスマホでちょこちょこ調べてた」という悪印象を与えかねないからだ。
何千ページもある本のページを一生懸命めくっている姿を見せることで、「こんなに薬があるんだったら、医者だって覚えきれないよな」という、言ってみれば「医療の不確実性」の『見える化』効果を期待しているわけでもある。なにごとも、演出は重要なのだ。

薬の副作用は無数にある。

知らないことは知らないと言う。知らなければその場で調べる。地道に愚直にこれを繰り返す。

医者にとって、これこそが最善の副作用対策ではないかと今も思う。
そして医者がそうした姿勢を保つことは、患者さんにとっても決して悪いことではないはずだ。

 (FB2013年12月9日を加筆再掲)

 

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