映画化希望ーネット起業家から警察官になった男、ブレット・ゴールドスタイン その1

誰かブレット・ゴールドスタインの話を映画かドラマにしてくれないだろうか。

ゴールド・スタインはネット起業家からシカゴの警察官になった男だ。ジリアン・テット『サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠』(文春E-BOOK 2016年)の第5章に出てくる。

 

以下の話はすべて上掲書に基づく。

ブレット・ゴールドスタインはもともと、成功したネット起業家だった。オープンテーブルというネット企業の責任者だった彼の人生はしかし、あの1日によってガラッと変わる。2001年9月11日だ。

出張中の飛行機の中、滑走路の上でゴールドスタインは多発テロのニュースを知る。飛行機の乗客たちの携帯電話やポケベルが鳴り響くなか、<全員飛行機を離れるように、という機内アナウンスが流れた。>(上掲書kindle版)

シカゴ空港を出たゴールドスタインは、タクシーで自宅へ向かう。ラジオは、たくさんの人の死を繰り返し伝えた。<心の中で何かがパチンと弾けた。>

それまで彼の人生は順調だった。しかし突如として湧き上がる想い。

<(略)本当に意味のあることをやらなければ(略)>

彼は模索しはじめる。別の人生を。

<自分でも説明できないほど、もっと大きく人生を変えたいという欲求を感じていた。そんなある週末、新聞を読んでいると、ニューヨーク市警が対テロ業務を担うホワイトカラーの専門職の採用を始める、という記事が目に入った。>

彼は思った、面白そうだ。
<同じことをシカゴ市警でもできないだろうか。>

 

まわりのみんなはゴールドスタインが警察官になると聞いて猛反対した。味方はただ一人、妻のサラだけだ。

ゴールドスタインはシカゴ市警の採用試験を受ける。心に秘めたのはある野心だ。
<警察制度に貢献し、場合によってはそれを改善>したい。

 

シカゴ市警は伝統と結束を誇る組織だった。
<一万三〇〇〇人あまりの職員のほとんどが一生を警察官として過ごし、その父親も祖父も曾祖父も警察官という例も珍しくなかった。当然ながら警察本部長は必ずといってよいほどこの強い絆で結ばれた部族の出身者だった。>

しかし成功したITビジネスマンとはいえ、ひ弱なオタクで警察トライブの部外者であるゴールドスタインが採用試験を受けたとき、ちょうどシカゴ市警には改革の嵐が吹き始めていた。理由は市警の度重なる暴力と汚職

50年ぶりに外部から警察本部長が招かれた。男の名はジョディ・ワイス、元FBI。

 

ジョディ・ワイスはFBIにいたころ、あるプロジェクトを担当していた。

縦割りで互いにナワバリ争いをしがちだった、FBI、CIA、警察などの諜報機関同士が、情報を共有し犯罪やテロについて議論していくプロジェクトだ。
<「われわれは情報源を持ち寄り、地図に書き込んでいった。どこのエリアをカバーできているか見きわめるためだ。(略)」(略)
「執行されていない令状、性犯罪者、さまざまな人口調査データなどを持ち寄り、地図に出来るだけ多くのデータセットを埋め込んでいった。たとえば児童誘拐事件が起きたら発生場所を確認し、性犯罪の前科がある人間がどれだけ登録されているかが見られるようにするためだ」>

捜査の基本とも思えるこの手法は、実際には実行されるのが簡単ではなかった。
FBIもCIAも警察も、自分の組織の情報は出したがらなかったのだ。それだけではなく、それぞれの構成メンバーも、自分の持っている情報を他者に渡すのを嫌う傾向にあった。「俺のネタ」は渡さない、というわけだ。

 

のちにシカゴ市警の改革者となるジョディ・ワイスはしかし、なんとかその情報共有プロジェクトをFBIで実行した。この経験が、将来シカゴ市警の『殺人予報地図』を生む。

ゴールドスタインとワイスが出会うのは、まだ先の話だ。(続く)

 

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