医者が病気を説明するときに思うこと。(R改)

二十代のころ、深夜のドライブ中に車が急に止まってしまったことがある。
時計の針は午前3時、国道357号という自動車専用の高速道路みたいな道の上だった。機械オンチ、車オンチのぼくは途方に暮れ、JAFに助けを求めた。

 

ありがたいことにJAFのお兄ちゃんはすぐ来てくれた。

彼の説明は専門用語も多くぼくにはちんぷんかんぷんで、車も結局その日には直らなかったけど、とにかくすぐに車が爆発したりはしないということだけはわかったし、「ここにきちんと状況を把握してくれている人がいる」という安心感はなによりも大きかった。
どんなことを言われたか、今となってはまったくもって記憶にないが、根気づよく説明してくれる姿と安心感は今もしっかりと覚えている。

 

現在、ぼくは医者として認知症の患者さんの診療に従事している。

患者さんというのは、医者自身が思っているほどこちらの説明を理解してくれているわけではないことが多い。
何度説明してもわかってもらえなかったり、前回説明したことも忘れられてしまったりすることもある。そのたびに正直トホホとなるけれど、気をとりなおして説明をかみくだいて繰り返す。何度でも何度でも。

 

光のない国道357号の上で一人助けを待つ心細さを忘れることは出来ないし、あのときのJAFのお兄ちゃんに負けるわけにはいかないからだ。
(FB 2013年1月18日を再掲)

 

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