知恵者の話ーメイク・トゥモロー・グレート・アゲイン(R改)

世の中にはすごい知恵者がたくさんいる。
誰もが仕方ないよと肩をすくめるような苦境も、そんな知恵者にとっては自分を試すチャンスだ。
正直うまくいくとは限らないが、叩けばこそ扉はひらかれる。
 

知恵者の話その1.

九州にあるGという会社のK社長にお会いしたのは数年前。
Gはレストランや結婚式場を手広くやっている会社だが、そもそものスタートがわくわくするものだった。
傾きかけた旅館のあとつぎだったK社長は、まわりの農家が規格外で出荷できない野菜をもてあましているのをみてふと思い付いた。

 

「誰も買ってくれない野菜だったら俺が買ってやろうじゃないか」
農協にだけ出荷していて日々の現金収入があまりない農家は、お金にならない規格外の野菜が現金になるなら大歓迎と格安でK社長に野菜を譲ったそうだ。若きK社長は自ら軽トラックを転がし山々を回って長すぎるニンジンや割れたキャベツ、形の悪いトマトを買い集めた。

 

買い集めた規格外の野菜の山を前に社長は腕を組んで考えた。
さてどうしたもんだろう。料理長はこんな形の悪い野菜を半端な数渡されても困る、こっちは前々から献立を考えてるんだし、勝手な真似をしてもらってもね、と渋い顔だ。普通ならここで引き下がるところだがK社長は違った。

 

あるものでなんとかやってくれ。
腹をくくって料理長を説得する。自分が板前の修行をしたからこそ説得できたという。
かくして規格外の野菜をメインにした、バイキングスタイルのレストランが誕生した。
バイキングスタイルなら途中で材料の野菜が切れてもメニューを変えればすむ。
見た目の揃った料理を人数分並べる旅館のやり方とは真逆の方法だ。
原材料は形こそ規格外だがまさに地産地消の新鮮そのもの。
入荷する内容によってフレキシブルにメニューが変わるのもリピーターにとってはかえって嬉しい。
かくしてGは店舗を増やし今では都内にも店が出ている。

 

知恵者の話その2. 

売上倍増中のタタミ屋の話を以前にテレビで見たことがある。これもまた、知恵者の話。

 

残念ながらタタミ屋は斜陽産業だ。
そんなタタミ屋で売上倍増なんてどういうカラクリか興味津々で番組を観ていたら、その理由は大変理にかなったものだった。
深夜営業なのである。

 

生活の洋式化で、一般家庭でのタタミのニーズはどんどん減っている。
けれども視点を家の外に向けてみると、まだまだタタミのニーズはたくさんある。
飲食店のお座敷だ。和食系外食チェーンに居酒屋、寿司屋に鍋にうどん屋そば屋。
一店舗で何十畳ものタタミが使われている。

 

繁盛店ほどお客が出入りしタタミは汚れてすりきれる。
今まではタタミの入れ替えのときには営業を休まなければいけなかった。昼間しかタタミ屋が来てくれなかったからだ。

 

だがしかし牧歌的な時は過ぎ、今は激しい競争の時代だ。
ライバル店に負けるわけにいかない飲食店側は一日たりとも店を休みたくない。タタミの張り替えのために一日臨時休業すれば、何万何十万の売上を失い、客が他店に流れる。そんなときに深夜営業のタタミ屋ならば、夜の営業が終わり次の日の昼間の営業が始まるまでに全部タタミを張り替えてくれる。
タタミ屋側も一気に何十畳とタタミが売れる。

 

なんて頭のいい人がいるんだろうとぼくはテレビを見ながら感心した。働く側のタタミ職人サイドからしたら深夜に働かされるのは勘弁というのが本音かもしれないが。

 

社会が便利になり過ぎるのも考えものではあるが、きっとまだまだこれからもそういう知恵者が活躍していくんだろうなあ。

 

こんなふうに、ぼくは知恵者の話を聞くとわくわくする。
どこかの誰かが考えた新しい知恵が、停滞な今日を素敵な明日に変えていく。

(FB2015年2月17日、20日を加筆再掲)

 

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