a tribe called doctor/World Congress of Neurologyを前に

自分の所属している日本神経学会が今日からスタート。
日帰りだけど明日参加の予定ということで、医学学会に関する数年前の苦い思い出がよみがえってきた。

外科医で雑誌『ニューヨーカー』ライターのアトゥール・ガワンデが医者の学会についてこんなことを書いている。
<医者は孤立した世界に住んでいる。出血と検査と切り刻まれる人から成る異質の世界だ。(略)身内の者にも理解されない世界であり、ある意味では、運動選手や兵士やプロの音楽家が置かれている状況と似ているかもしれない。だが、そういう人たちとは違って、医者は孤立しているだけでなく孤独なのである。研修期間を終え、スリーピーアイやミシガン州南部半島の最北端の町、あるいはマンハッタンに居を構え、たくさんの患者を相手に孤立無援の診療に当たっていると、胃癌の切除手術の後に肺炎で患者をなくしたり、家族の責め立てるような質問に答えたり、保険会社と支払いのことでもめたりするときの気持ちをわかってくれる仲間と知り合うことなどできないのだ。
しかし、一年に一度、その気持ちを分かち合える人々がある。どこを向いても仲間がいる。そして、近づいてきて親しげに隣に座る。主催者はこの学会を「外科医の議会」と呼ぶが、的を射た呼び名だ。そう、私たち...は、数日の間、いいところも悪いところもひっくるめ、医者だけの国の住人になるのである。>(『コード・ブルー 外科研修医 救急コール』医学評論社 2004年 p.103-104。第一部第5章「良い医者が悪い医者になるとき」は必読)

かくしてその年、ぼくも神経内科医という部族の一員であることを確認すべく学会会場を訪れたのだが、前日に十年ぶりぐらいに再会した後輩S先生と飲みすぎてあいにくの二日酔い。
頭痛について頭を悩ませること誰よりも深刻でまるでわがことの如く、胸に込み上げてくるものは医者同士の連帯感ではない熱い何か。
講演を聴いている間にも何度か意識を失い、あらためて昏睡coma and stuperと意識の不思議さに思いを馳せる。
脳の損傷によって行動がうまくできなくなる<失行>症状と言語の障害である<失語>の講義の際にも頭に浮かんでくるのはただただ<失態>の二文字。

 

というわけで二日酔いの学会参加であったが昨夜早めに会場を後にしたのは正解であった。あのまま失態をさらし続けたら、<医者だけの国>から永久国外退去を命じられていたかも知れない。
(FB2014年5月21日を再掲)

 

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