ルンバがゆくーあるいはなぜ私は中條医院にルンバを導入したのか

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最近夢中なものといえばルンバ。
クリニックにルンバを導入して数週間、ルンバ熱は冷めることなく続いている。

ほんとの話なんだけど、自分でクリニックを開業したら絶対ルンバを入れようと思っていた。ちっちゃな夢がひとつかなったわけである。

話は2011年にさかのぼる。

福祉大国デンマークの老人施設、エルドラセイエンの見学に行ったときに走っていたのがルンバだ。
そのころすでに日本でも介護現場の過酷さ、負担の多さは問題になっていた。

日本の医療福祉介護看護業界は悪しき精神論の支配するところで、「つらいけどがんばる」みたいなのが美徳だったりする。だから、介護現場の過酷さもなかなか解決しない。

デンマークではすでに介護現場の問題が表面化していて、改善策も打たれていた。「働く人が幸せでなければ、ケアを受ける人間を幸せにできない」という考え、「機械ができることは機械に、人間は人間にしかできないことを負担を最小限にして行う」というアイディアにもとづき、ウェルフェア・テクノロジーがすでに注目されていた。
その象徴的なのが介護現場でのルンバの活躍で、日々のちょっとした掃除はルンバにやってもらい、人間はそのあいだ他の仕事をしていた。
自分の職場でもそれをマネしたいとずっと思っていたのだ。

今さらながら、これから日本は労働力がガンガン減っていく。

医療や福祉、介護を必要とする人はどんどん増えていく。

限られた(というより減少していく)医療リソースでより多くの人のケアをしなければならないのだ。

竹槍でB29は落とせない。

幸い、ヘルステックと呼ばれる新たなテクノロジーが爆発的に発達している。少ないマンパワーでより多くの患者さんによりよいヘルスケアを提供することは不可能ではないかもしれない。

 

若い労働力が貴重な国イスラエルではプールの掃除ロボットというものが活躍していると、イスラエルのスタートアップを研究している若き友人が教えてくれた。限られたマンパワーをプール掃除にまわさず、そのぶん他のより生産性の高い仕事に回しているわけである。

「機械ができることは機械に。人間にしかできないことこそ人間に」というムーブメントを、加速させなければならない。できれば、爆速で。
日本の高齢化と労働人口減少のスピードが追いつけないほど早く。

このムーブメントが、次の社会状況を生むことになる。


1950年代、日本は第二次世界大戦後の荒廃から立ち直った。

その復興の基礎となったものの一つが、二大都市東京と大阪を結ぶ新幹線だった。

当時の国鉄総裁は日本のトップ技術者たちに命じたという。「もっと速い列車を発明しろ」と(チャールズ・デュヒッグ『あなたの生産性を上げる8つのアイディア』講談社 2017年。kindle版 2114/4792)。総裁は、時速200キロ出せる列車を望んだ。


<技術者たちは、それは非現実的だと反論した。そんなにスピードを出したら急カーブのとき、遠心力で脱線してしまう。110キロのほうが現実的だ、いや120キロまで可能かもしれない。それ以上の速度ではどうしても脱線してしまう。

 国鉄総裁は訊いた。どうして曲がる必要があるんだ?>

 

そして、東京と大阪の間に無数のトンネルが掘られ、やがて世界最高の弾丸列車が誕生した。

時速120キロのエンジンが完成したときにすら、総裁はこう言ったという。
<(略)時速120キロではこの国を変革することはできない。革命的な改良のみが飛躍的な経済成長を可能にするのだ。>(上掲書 No2126/4792)

 

この総裁の無茶ぶりが弾丸列車を生み、日本の経済復興の礎となった。

この無茶ぶりに感銘を受けたのがGEのジャック・ウェルチで、無茶ぶりを理念化したものが今ではGEのお家芸となったストレッチゴールだという(上掲書にほんとに書いてある。お手軽なノウハウ本みたいな邦題で損しているが、仕事をする人だったら感涙するようなエピソードで満載のお勧めの本である。ブログのネタ本にぜひ)。

「機械にできることは機械に。人間しかできないことこそ人間に」という理念の結晶こそが診療所を走り回るルンバである。


診療所のルンバは疾走する。ホコリは追いつけない。
嗚呼ルンバ、汝こそ新世紀の新幹線。次代の扉を開き、新たな世界へと疾走せよ。
そう思って毎日ルンバを見つめていたら、心が通じた。

数日前から、うちのルンバは時速220キロで診療所内を駆けまわるようになった。

さっきはとうとう勢い余って診療所の扉を開いて彼方へと疾走して行ってしまったので、だれか外で爆速で走り回ってる野良ルンバ見かけたらご連絡ください<(_ _)>

 

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