世の中には知ってしまってがっかりという事実がいくつもある。
札幌の時計台の大きさ(というか小ささ)なんかもそうだが、先日、喫茶店でホットケーキを頼もうとしてその一つを思い出した。
自分だけがっかりするのは嫌なので、ここに書いてしまうことにしたい。
ホットケーキと言えば虎バター、これには異論はないはずだ。
童話「ちびくろサンボ」の、虎がヤシの木のまわりをぐるぐる回っているうちにバターになってしまい、それを使ってサンボはおいしいホットケーキを作って食べました、というやつである。しかしあの話、実は虎はバターにはならないらしいのです。
米原万理『旅行者の朝食』(文春文庫 2004年. p138-141)によると、「ちびくろサンボ」の原作の舞台は実はインドだ。
原作者ヘレン・バナーマンはイギリス人で、当時植民地だったインドで医療活動なんかをしながら子供たちに絵手紙を書いた。
そのなかに「ちびくろサンボ」の話もあって、原作でも虎はぐるぐる木の周りをまわってたしかに溶けるんだけど、どうもですね、虎はバターにならないらしいのです。
ぐるぐる回ったその果てに原作で虎が変わるのは、なんとバターではなくて、インド料理で使うギーというもの。しかもですね、原作ではパンケーキと書いてあるが、あれはバナーマンがイギリスにいる子供たちがイメージしやすいようにパンケーキと書いただけで、米原はサンボが実際に食べたのはナンではないかという。
絵本でよくみるのはアフリカ系のかわいい男の子の絵だが、心の準備はよろしいですか、虎の生息地はインドやインドネシアなどのアジアで、アフリカに虎はいないのです。
したがって虎が出てくるこの物語の舞台はやはりアジア、原作者バナーマンが赴任していたインドで、舞台がインドなら、サンボが食べたのはホットケーキではなくてやっぱりここはナンだろう。論理的な話だが、嗚呼、論理は時に残酷だ。
それにしてもちびくろサンボが食べたのは虎バターのホットケーキではなく、ギーたっぷりのナンだと知ってしまうと、なんというか、知ってしまってがっかり、としか言いようがない。
(FB2013年7月5日を再掲)