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Forbes JAPAN記事 『3分診療の時代は終わった』について反論文を送ってみました。

Forbes JAPAN掲載の『3分診療の時代は終わった』について、以下のような反論文を編集部に送ってみました。

 

Forbes JAPAN11月14日配信の記事、『3分診療の時代は終わった』を興味深く拝読いたしました。千葉県にあります松戸神経内科の医師の高橋宏和と申します。私も、日本の3分診療が改善されるべきだという点は同意いたします。しかしながら私は一朝一夕には3分診療は改善されないと考え、その中でも最善を尽くすべく、一般市民の方々向けに先日『3分診療時代の長生きできる受診のコツ45』(世界文化社)という本を上梓いたしました。

 

さて、今回の記事では日本の医療について読者に誤解を与える恐れがあると大変危惧しております。

同記事で憂慮すべき点は二点ございます。

 

一点目は日米の医療スタイルの比較において比較対象がアンバランスであること、二点目は著者が医療制度のゆがみというマクロ構造の問題を日本の医師の姿勢というミクロなものと安直に結びつけていることです。

 

一点目について、筆者はカリフォルニア大学のクレイグ教授が福島を訪れたときという特殊な状況下での診察スタイルと、日本の一般的な医療機関の「3分診療」スタイルを無自覚に比較しております。アメリカはGDP比で16.4%という莫大な医療費を使い、数千万人の無保険者を切り捨てて医療を運営している国です。その中でもカリフォルニア大学教授という最も良質な医療者の、福島訪問時という特殊な状況下の診察スタイルと、日本の一般的な病院の通常外来の診察スタイルを比較し、「日本は遅れている」という印象づけをするのはフェアではありません。

もし日米比較をするならば、アメリカ医療の最良の部分と日本医療の最良の部分を比較するか、高齢者・低所得者向けのメディケア・メディケイドや低所得者向けに看護師が簡単な診察と処方を行うウォールマートクリニックなども含めたアメリカ医療の平均的なものと日本の医療の平均的なものを比較して論じるべきです。特別なただし書きなくクレイグ教授の診察スタイルと日本医療の平均的な姿を並列で書けば、読者は「日本の医療はダメだ」とミスリードされてしまいます。

 

二点目について、筆者は大学病院という特殊な医療環境で働いているということにあまりに無自覚なように思われます。大学病院は、紹介状のない患者を断ったり、初診料を1万円に値上げして受診のハードルを上げることで患者数を自由にコントロールできます。しかし、大学病院で門前払いされた患者さんたちを診療している医療現場もあるのです。街の一般的な病院や診療所では、限られた時間内に数多くの患者さんに対処することが求められます。その結果としてやむを得ず3分診療となっている現状は、医療制度の構造的な問題であります。

しかし記事の論調は、構造的な問題で生まれた3分診療のスタイルを、日本の医師の無知と怠惰によるものと印象づけかねないものです。3分診療のままでよいと思っている医師はおりません。しかしすべての医師がすべての患者さんにクレイグ教授流のじっくりと時間をかけた丁寧な診察スタイル(可能であれば私たちもそうありたいと切望するものです)を行っていたら、日本の医療制度は崩壊してしまうのです。

マクロの構造的な問題について、医療経済・医療経営の面からも安易な比較はできないことも付け加えたいと思います。保険会社AIUサイト(①)によれば、ニューヨークで盲腸の手術を受けると216万円の医療費がかかります(2008年時)。これに対し日本では盲腸の手術そのものは全額自己負担でも6万2100円です(②)。実際には麻酔や入院費もろもろがかかるにせよ、アメリカの10分の1程度です。仮に日本の医者がボランティアで働いたとしても、病院運営には看護師や検査技師、放射線技師、医療事務といったスタッフの人件費や家賃や光熱費がかかります。それをまかなうために、日本の医療現場はアメリカに比べ「薄利多売」しなければならないのも現状です。二回目以降の診察料、再診料は日本の場合690円(③)で、その他管理料等々がついても数千円です。外務省サイト(④)によれば、アメリカで専門医の診察を受けようとすれば200ドルから500ドルはかかるとのこと(カルフォルニア大学教授の受診料が安価とは思えません)ですから、やはり診察の段階でも日本はアメリカに比べ「薄利多売」とせざるを得ないこともご理解いただければと思います。これもまたマクロ的な構造問題です。

そうしたマクロの構造的な問題に一切言及することなく、個々の医師の無知や怠惰のせいで3分診療が横行していると読者に思われたとしたら、日本の医師の一人として大変悔しい思いです。

 

日本の一般的な医療現場で働く一人の医師として、ぜひ反論の機会を与えていただきたくお願い申し上げます。

http://aienu.jp/relation/expense.html

②しろぼんねっとhttp://shirobon.net/24/ika_2_10_1_9_8/k718.html

③しろぼんねっとhttp://shirobon.net/24/ika_1_1_2/a001.html

http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/n_ame/ny.html

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