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「家族が認知症かもしれないけれど、病院に行きたがりません」ー入口問題について(R)

「家族が認知症かもしれないんだけど、どうしても病院に行きたがりません。
どうしたらいいでしょう?」
先日パネリストとして参加した長寿社会シンポジウムで出た質問だ。

認知症の診療に携わっているので、こうした質問を受けることはよくある。
認知症にはいろいろな原因疾患があり、個人差もあるが、ここでは認知症の中で一番割合の多いアルツハイマー認知症を中心に話を進めたい。

高齢化に伴い、認知症の患者数は増加傾向にある。
2013年時点で日本全国には462万人の認知症の患者さんがいるとされる。
介護保険の利用理由の第1位は脳卒中とその後遺症であり、第2位を認知症が占めるが、近いうちにその順位は入れ替わるだろうともいわれる。
一般に、認知症の発生率は年齢が上がるにつれ上昇し、85歳の方で約40%、90歳の方なら50%以上が何らかの認知症を有するともされる。
平均寿命まで生きたとすると、二人に一人は認知症にかかることになるので、平均的な夫婦では生涯のうちにどちらかが認知症を患う計算となる。

認知症の診断・治療研究は日進月歩である。
1999年4月にぼくが研修医になったころには治療薬のアリセプト介護保険もまだなく(アリセプトは1997年に米国で販売開始、日本では1999年認可。介護保険施行は2000年)、教科書には日本では脳血管性認知症が多く、アルツハイマー認知症の割合は少ない、なんて書いてあった。
しかしながら今も昔も変わらず大きな課題なのは、いかに早く病院にきてもらうかという「入口問題」ではないだろうか。

2014年9月16日付日経新聞電子版によれば、認知症ではないかと家族が心配になるエピソードがあってから実際に病院に受診するまで、平均で9か月半の期間がかかっている。
京都の「認知症の人と家族の会」と製薬会社イーライリリーが共同で行ったこのアンケートでは、家族が異変に気づいてから受診まで5年以上かかっているケースもあるとのことである。

認知症ではないかと家族が思ってから受診まで、平均9か月半かかるのはなぜだろうか。
最大の理由はおそらく、本人が病院に行きたがらないということであろう。
自分が認知症ではないかという思いがあればあるほど、そうではないという「否認」の感情が生まれる。
歳をとれば誰だって忘れっぽくなるものだし、自分が認知症のはずがない。
家族はしつこく受診を勧めるけれど、病院に行く必要はないんじゃないか、行って認知症のレッテルを貼られるなんてごめんだ。
―そんな感情が本人の心に繰り返し生まれ、受診の勧めをかたくなに拒否する。
繰り返し繰り返しの説得の末、やっとの思いで家族が病院まで連れてくるまでの時間が、平均9か月半なのではないだろうか。

実際、認知症ではないかと家族が連れてくるというのはよっぽどのことだ。
認知症診療では"attended alone(一人受診)”徴候というのがあって、初回の受診の際に「私認知症じゃないでしょうか」と一人で受診した場合、ほとんどは認知症の心配はなく、2年ほどフォローしても認知症になっていない人が大半な一方、家族に伴われて認知症外来に受診する人の多くは診察・検査の結果、認知症の診断が下るという経験則がある(福武敏夫著『神経症状の診かた・考え方 General Neurologyのすすめ』2014年 医学書院。きちんと統計処理した論文がある)。

前述のとおり認知症には様々な疾患が隠れており、正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫など脳外科的治療が非常に効果的なものもある。
また、アルツハイマー認知症の薬物治療について様々な意見があるのも事実で、「あんまり効かないんじゃないの」「結局悪くなるから一緒じゃないの」という医師も一定数存在する。
しかし、少なくとも早期に介護保険などの社会的介入に結び付けられることは有用だし、不安に苛まれるままでいるより今後の見通しが早くついたほうがいいことは異論がないのではないだろうか。
認知症を心配している方に、如何に早く受診していただくか、という「入口問題」の解決が心より待たれる。

「入口問題」の理由、解決の方法についてはまたいつの日か。
自分用覚書としてキーワードのみ記しておく。
 キーワード:WHO「Overcomig Stigma」、クリスティーン・ボーデン『私は誰になっていくの?』、岡野雄一ペコロスの母に会いに行く』、京都文書「大変な人がいるのではなく大変な時期があるだけ」、精神保健福祉法自傷他害の問題が無い場合、強制的医療介入には問題がありたとえ認知症の人でも自発的な受診が大原則、という観点)、認知症と「正常」とはボーダーレスでgraduationのあるものだがやはり認知症と生理的物忘れは決定的に異なる、等。

ではまた。
(FB2014年10月28日を再掲)

 

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