「火傷したらガスやフライパンであたためるのが新常識☆あたためると体の自然治癒力がアップして治る」というクレイジーインチキ情報が世に出回って数日立つ。
大間違いです。とにかく火傷は流水で冷やしましょう。
なんでもかんでも自然が一番、人工物はダメダメっていう感覚はわからんでもないけど、自然ものがなんでも体にいいんだったらトリカブトもフグ毒テトロドトキシンも100%の天然ものだ。体に有毒な天然ものもあるし、体に有益な人工物もあるってだけの話。
熱でダメージを受けた人体が、別の熱によって治癒力を増すっていうのはあれだろうか、「右の頬を打たれたら左の頬を出せ」みたいなことだろうか。右頬に受けたダメージを回復するために、あえて左頬を打たせて治癒力を高める、みたいな。たぶん違うなあ。
で、こうしたエセ医学信者がなにに似てるかとつらつら考えてみると、なんとメシマズと呼ばれる人たちの行動様式にそっくりなことが判明した。
メシマズは「(作る)メシがマズい」の略で、その原因は下記だという。
・調べない
・レシピを見ない、無視する
・自己流アレンジを加えたがる
・ナゾのひと手間を加えたがる
・かけた努力の量イコール美味しさだと思っている
・味見をしない
・料理の優先順位が味以外のなにか
前半は先日論じたので、後半について述べる。
その4.ナゾのひと手間を加えたがる
メシマズな人々はレシピを軽く無視するわりに、自己流のナゾのひと手間を加えたがる。レシピにはないのに、無意味に一晩鶏肉を白ワインにつけこんだり、できあいの調味料でも十分おいしくできるのに「直感で」スパイスを買い込んで混ぜ合わせたり。
メシマズ・トライブがその手間をなぜレシピを完遂する方向に向けないかのナゾは、今世紀中には解明できないとされている。
エセ医学信者も、処方された薬を言われたとおりには飲まないが、なぜか得体の知れない健康食品に手を出したり、「電気がぴかぴかひかって電波だか磁気だかで体をキレイにしてくれる器械」にかかりに毎日怪しげな店に通ったりする。
その5.かけた努力の量イコール美味しさだと思っている
努力はすばらしいが方向性も大事だ。
手間ヒマかけたから、長い時間かけたからといってその分だけ美味しくなるとは限らないと田崎真也も言っている(『言葉にして伝える技術ーソムリエの表現力』祥伝社 2010年 p.28-31,p.56-58。知と美を兼ね備えた友人Aさんより教えていただいた良書)。
正しい方向に正しく努力してこそ最大の美味しさが得られる。健康もまたしかり。
その6.味見をしない
メシマズな人々は調理中、決して味見をしない。
まるで味見が罪であるかのように、味見をしない。
素材がまだ硬ければもう少し火を通し、味が薄ければ濃くしていくという軌道修正が料理の完成度を高めるのだが、メシマズは味見をしない。
ここで貴重な証言を引用する。
リリー・フランキー氏は自ら、料理はするが味はだめ、とナンシー関に告白し、一番だめなのはハンバーグとカレーと述べた後にこう言っている。
<リリー それができないんだな、俺。味見はね、なんか姑息な感じがする。
ナンシー 博打じゃないんだからさ(笑)。「途中で味みてどうだからって、俺は変えないよ」ってこと?
リリー というか、作っている最中にマズいってわかりたくないんですよ(笑)。料理のうまい人にも「とにかく何回も味見しろ」って言われてるんだけど、なんかつまらなそうなんだよね。>(ナンシー関、リリー・フランキー『リリー&ナンシーの小さなスナック』文藝春秋 2002年 p.238。これまた良書で、数時間の至福をお約束する。ナンシー関さえ生きていれば。)
エセ医学信者の方々も味見をしない。
ここでいう味見は、自分の信奉するインチキ健康法が、本当に効いているのか、という確認行為のことを指す。
「友達に勧められて、○○っていう健康食品を飲んでいるんですよ。何万円もするんです」
そんなことを言われるとぼくはついこう聞いてしまう。
「そうですか。それで、それ、効いてます?」
みな一様に「え?」と驚いた顔をする。それから少し顔を曇らせ、「効いてるかどうか、考えたこともなかった…」
誰かに勧められたからとか雑誌に載ってたからとかの理由で健康法を始めたってかまわないが、やりながらちょくちょく効いてるのかどうかは確認したほうがよい。
ふくらはぎもんで、健康になりました?
その7. 料理の優先順位が味以外のなにか
メシマズな人々の多くは、自分のメシがマズいことは薄々自覚している。でもいいのだ。メシマズな人々にとって、メシがマズくても、「残りものが整理できたから」、「とりあえずおなかがいっぱいになったから」、「オーガニックで健康にいいから」、料理は失敗ではないのである。本当にごめんなさい。
それと同じように、エセ医学信者の方々は、信奉する健康食品や健康法を実践して健康になることよりも、「新常識☆の火傷あっため療法でほかのママとは一味違うアタシ」が実現することを願っている。
「効いてるかどうかはわからないけど、オーガニックだから」、「健康になるかはわからないけど雑誌やネットで話題だから」、「ひとがいいって言ってたから」周囲にエセ医学情報を布教して回るのがエセ医学信者の方々である。
ことほど左様に、エセ医学信者の方々とメシマズ・ピープルというのは共通点が多々ある。ここまで書いてきて、このインスピレーションを与えてくれたブログ『トイアンナのぐだぐだ』を読み返してみてもうひとつ共通点を見つけた。
エセ医学信者とメシマズの最大の共通点は、その子どもが泣かされるということだ。今度からレシピどおりにやります。
嗚呼、空に星、地には花、人に愛を。
↓自己流で病気をこじらせる前に、まずは専門家に相談を!
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