Autumn in Paris.(R)

いつも右と左で色の違う靴をはいて旅するカバン屋の絵本を子供たちに読んでやっていたら、ふとある人のことを思い出した。20年ほど前、パリのユースホステルで出会った60歳くらいのカナダ人の、白髪白ひげのおじさんのことだ。

 

絵本のカバン屋は暖かい季節だけ旅をして北風が吹き始めると家に帰るのだが、そのカナダのおじさんは全く真逆だった。北風が吹き始めると旅に出て、暖かい季節が来ると家に帰る。
1年の3分の1くらい、世界中の好きなところを旅するような生活を、もう何年もしているという。

割安だけども若者だらけのユースホステルを利用するのも、長旅なので少しでもリーズナブルなほうがよいからだ、と朝食のテーブルでコーヒーを手に、ハンチングハットにワインレッドの簡素なセーターのそのおじさんは言った。

 

毎年毎年数ヶ月も世界を旅できるなんてさぞやリッチに違いない、うらやましいですね、なんて言うと、いやあリッチってわけでもないさと彼は答えた。


ただね、俺が働いているのはカナダの奥地のハイウェイの料金所みたいなところで、冬になると大雪で数ヶ月ハイウェイごと閉鎖になっちまうんだ。だから俺は暖かい間はひたすらセイブ・マネーして、冬になったら好きな場所に旅立つってわけさ。
この冬は、花のパリに旅するって決めていたんだよ。

 

そんな生き方もあるんだなあと印象的で、今でもそのパリのユースの朝の会話は覚えている。

ここのところ台風続きで、夏が過ぎたんだなあとちょっとしんみりとするが、今頃あのカナダのおじさんは、うきうきとこの冬の旅のプランでも立て始めているのだろう。

(FB2013年8月24日を再掲)

 

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