うまい棒の穴から見る日本の危機と打開策ー君はシュガーラスク味を知っているか。

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うまい棒という駄菓子がある。
1本10円、コーンパフにさまざまな味のついた棒状のお菓子で、1979年発売以来数十年にわたって日本の子どもたちのおなかを満たしてきた。
そのうまい棒に、今変化の波が訪れているのをご存じだろうか
 
チーズ味、コーンポタージュ味、とんかつソース味、サラミ味などなど数多くのうまい棒がある中で、変化のきざしを見せたのは「シュガーラスク味」であった。
変化は味ではなく、形状に現れた。なんと、「シュガーラスク味」、中心に穴が無いのだ。
 
うまい棒といえば中空状の構造が売りだ。うまい棒は、中空状の棒構造をとることにより外部からの圧を分散させて割れにくくするとともに軽い歯ごたえを実現している。
しかし「シュガーラスク味」には、その売りである中央の『穴」がないのだ。

「シュガーラスク味」で穴なし構造を採用するまでにはやおきん・リスカ両社の壮絶な駆け引きがあった。
菓子の企画、立案をするやおきん社が現行の中空構造を要求するのに対し、実際に製造を請け負うリスカ社は激しく抵抗した。理由は人件費の高騰と後継者不足である。
そこには現代日本の縮図があった。

東京五輪を前に、どの業界でも人手不足が深刻だ。駄菓子業界も例外ではない。
人員を確保するためにやむなく人件費をあげなければならないが、それが経営を圧迫する。それを商品の値段に転嫁できればよいが、長いデフレに慣れきった消費者は価格上昇を許さない。
その結果生まれたのが穴なしうまい棒、「シュガーラスク味」なのだ。
 
つまりはこういうことだ。
10円の値段を堅持するためには、もはや既存の中空構造のうまい棒を作ることはできない。工程を一つ減らさなければならないのだ。
うまい棒のちょうど真ん中にぴったりとした穴を開け、季節や味によって数ミクロン単位で穴の大きさを変えるには熟練の技がいる。
あまり知られていないことだが、うまい棒は穴あけ職人たちが一本一本棒状の生地をくり抜いて丁寧に穴を開けてつくられている。ちなみに、くりぬいた部分の生地が「キャベツ太郎」の元になっている。
うまい棒の穴あけは熟練が要求される技だが、昨年その穴あけ職人の一人が高齢のため引退したことも響いている。うまい棒穴あけ職人のワザを引き継ぐものがいなかったのだ。
ここにもまた、日本の危機の一つ、後継者不足という問題がある。
ベテラン穴あけ職人の抜けた穴は大きかったというわけだ。

うまい棒の価格を抑え、人手不足をカバーするために取られた苦渋の策が穴なしのうまい棒「シュガーラスク味」である。これからじわじわと、穴なしの形状がほかの味のうまい棒にも広がっていくことが業界では予想されている。
人件費高騰と人手不足、後継者難という日本の危機と、それを乗り越えるためのシンプル化。うまい棒の穴からも、その気になればそんなものが垣間見えてくる。

なお、「シュガーラスク味」に穴のないのは本当だが、それ以外は全てウソなのはいうまでもない。ごめんなさい<(_ _)>

 

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