ダチョウが飛ぶ日~知能と知性byハマトン

「頭が良い」というのはどういうことだろうか。
19世紀イギリスの随筆家P.G.ハマトンは「頭の良さ」を知能(インテリジェンス)と知性(インテレクト)に分けて論じている。
ハマトンによれば、知能とは目の前のタスクを間違いなくうまく処理する実務的な能力だ。それに対し知性はものごと全体を高い次元から把握する能力である(ハマトン『知的生活』講談社学術文庫1991年 p.522。最近出た三笠書房版の『新版 ハマトンの知的生活』ではこのパートは割愛されているので注意)。
ハマトンは実務的な能力である知能を「ダチョウの歩く力」、ものごと全体を瞬時にして俯瞰し把握する知性を「ワシなどの飛ぶ力」に例えている。
 
ハマトンは、知能を使うことにとらわれていると知性が働かないという。目の前の実務に追われていると「智慧ある直感力」(訳者である下谷和幸氏の表現。新版あとがきより)である知性が働く余地がないということだろう。
 
しかし、知能と知性を別物ととらえるのは危険だろう。
目の前のタスクを「ある程度」きちんとこなせない者が、いきなり高みからものごと全体を正確に把握し判断することはできない。
実務をおろそかにして一足飛びに知性を身につけようとするならば、動画サイトでおかしなお勉強動画「10分で全部わかる◯◯」みたいなものの餌食になるだけだ。
九九が出来なければ高等数学は出来ないし、バイエルも弾けなければ交響曲は書けない(たぶん)。
 
だから、ものごと全体を高い次元から把握し正確な判断を下せる知性(インテレクト)を身につけたければまずは知能(インテリジェンス)を使って地道に、力強く着実にこなしていかなければならない。
いつか天空高く飛翔したいと願うダチョウのように、まずは力いっぱい地上を踏み締めていくのだ。