3分診療のままでよいとは思わない。それでもなお、できることがある。
世界で一番幸せな国デンマークで聞いた話。
デンマークで風邪をひいた日本人が、かかりつけ医にかかろうとした。
熱とくしゃみに苦しみながらバスに乗り、重いからだを引きずりながら、なんとか薬をもらおうとかかりつけ医のクリニックまでたどりついた。
くしゃみと鼻水、熱がひどいことを必死で訴えるとかかりつけ医は慈愛に満ちたまなざしで、心の底から同情して言った。
「かわいそうに、ひどい風邪だ。大変な目にあったね。
さあこんなところに来ている場合じゃないよ。家であったかくして寝ていなきゃだめじゃないか」。
多くの医者が語っているように、風邪を根本的に治す薬はない。
何時間もかけて病院まで行って出してもらう薬は総合感冒薬で、解熱剤や咳止めは入っているけれど、風邪の原因のウイルスを殺すものではない。風邪の症状を起こすウイルスにはたくさんあって、それぞれのウイルスを殺せる抗ウイルス薬というのはまだないのだ。
総合感冒薬で調子がよくなってもそれは見かけ上のことで、治ったわけではなく、症状が緩和しただけだ。総合感冒薬によって症状が楽になっている隙に体が自分の力で風邪ウイルスをやつけているわけである。
「風邪ごときを克服できないで、医学がなんの役に立つというのか」。
かのナポレオンの言葉だそうだ。21世紀もだいぶたったがまだ、医学は風邪ごときを克服できない。医者の辞書は、「不可能」という文字だらけなのだ。
病院で出してもらう薬はそんなわけで、基本的には治しているわけではなく症状を見かけ上軽くするだけだ。それでもいいよという方には感冒薬をお出しするし、それだったら薬いらないというのであれば無理に処方することはなくて「じっくり寝ていてください」と指導している。
隙あらば寝る。
すべてを打ち捨てて寝る。
手負いの獣のように、ただひたすらに寝て、体を癒す。
只管臥床。
「世の中に 寝るより楽はなかりけり
浮世のバカは 起きて働く」なんてことを昔っから言う。
単なる風邪なら何時間もかけて病院に行くのではなく「寝るより楽はなかりけり」を実践していただきたい。風邪のときはただひたすらに寝ているというこのシンプルなコツを、この冬さっそくお試しくださいませ。
そう書きながら、少々喉が痛いので早めに寝ようと思う。