3分診療でどこまでできるか17『救急車を呼んでから病院に着くまでの時間を少しでも短縮する方法』

3分診療のままでよいとは思わない。それでもなお、できることがある。

 

急病のときに119番通報をすると救急車が来てくれる。しかしそのあと医療機関にたどり着くまで、実はかなりの地域差があることはあまり意識されていない。

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119番してから病院に運んでもらうまで最短は富山県と福岡県で平均29.9分、最長は東京都で平均54.6分かかる(平成25年データ)。

こうした状況がすぐに改善されるのは困難だ。しかしそれでもなお、できることがある。

 

重要なのはただ一つ、「正しい情報」だ。

 

119番通報から病院到着まで一番時間と手間がかかるのは受け入れてくれる病院探し。

現場に到着した救急隊は、患者さんの状況をみて対応可能な病院を電話で探す。

そのときに、かかりつけの病院がどこか、持病はなにか、飲んでいる薬はなにかという情報がないと、受け入れ病院が見つかりにくい。

受け入れる病院にもマンパワーに限界があり、どんな状態かわからない患者さんを受け入れるわけにはいかないのである。

「病院なんだからとりあえず救急患者を受け入れて、ダメならほかの病院に頼めばいいじゃないか」と思うかたもおられると思うし、一理あるとは思うのだが、そうした考えが成立しないのにはわけがある。

詳細は別の機会に述べるが、2003年に大阪高裁で出た判決で、「脳外科医が当直であっても、救急患者を受け入れた以上は心臓血管外科専門医が行う緊急治療もできなければいけない」という意味のものがある(日経メディカル2007年10月号『医師を襲うトンデモ医療裁判』p.62-63)。これは、「自分たちの医療機関で対応できないかもしれない救急患者は安易に受け入れないほうがよい」というメッセージを全国の医療機関に与えてしまった。

そんなことを背景に、情報の乏しい、医療機関にとってよくわからない救急患者さんは残念ながら受け入れをしぶれられる現状がある。医療者側の言い訳に聞こえるとは承知だが、それが良いか悪いかの話ではなく、医者側から正直に状況のみをお伝えしたいと思ってこの話を書いた。

というわけで、自衛策としては正確な情報ができるだけ救急隊に伝えられる準備をしておくこと。家族や友人の連絡先がわかったりするとなおよい。

医療情報を紙に書いて筒に入れて冷蔵庫に保管しておく「命のバトン」という方法もある。もっと簡単にできることとして、万が一のときのためにかかりつけ医、持病、飲んでいる薬、連絡してほしい家族や友人の連絡先を書いた紙を財布に入れておくことをおすすめいたします。