コトーを読みながら3‐離島の医療を継続させる工夫とは(後編)


山田貴敏著『Dr.コトー診療所』を読みながら、昔訪れた沖縄の離島の診療所のことを思い出している。そこで垣間見た、地域医療を継続するための工夫あれこれとはー

 

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4.医者の精神的負担を軽減するワンクッションコール制

「島で一人のお医者さんですから、24時間365日休みなく拘束されてるわけですよね。いつどこから緊急の電話が来るかわからないって、疲れませんか」

島で一人のお医者さんN先生に聞いてみた。

「んーでもね、島の住民からの救急の問い合わせの電話はいったん役場の人がとって、その役場の人がぼくに電話をくれるんですよ。これこれこういう患者さんが出てるけどって。夜中でもね。だから、少なくとも『誰からの電話かわからない』っていうストレスはないかな」

島の住民数百人から夜も昼も直接電話がかかってきたら相当ストレスだと思うが、このワンクッションコール制があれば落ち着いて対応できる。役場に担当者を交代で置く手間はかかるが、島で働く医者の人情に即したすぐれたシステムだと思う。
ただし上記の話は2010年ころぼくが訪れた島での話であり、たとえば竹富島では役場に一度電話するワンクッションコール制は平成27年に「119番」へのコールに切り替わったそうだ。

火事・救急・救助・ワンクッションコールは、119番へ - 竹富町

5.孤独を癒す離島間イントラネット

これまたぼくが2010年ころに見た島の話で、今はどうなっているかわからない。詳しいかた教えてください。

離島に医師を派遣している県立病院で若手の指導をしている先生から聞いた話。

「県立病院で医師を派遣しているあちこちの離島の診療所の間に、離島医師が情報共有できるイントラネットを作ったんですよ。つくったときは、お互いにわからない症例をディスカッションするために使われるかと思ったんだけど、実際運営してみると、ひとりぼっちで離島の医療を担う責任とか孤独とかうれしかったこととか、そんなことをお互い語りあってがんばってるみたいですね」

とのことであった。
その先生はほかにおっしゃっていたことで印象に残っているのは、「ドクターヘリとか華々しく報道されるけど、台風や夜間などは飛行に制限があるし、墜落事故だって少なくなくて、決して万能じゃない。アメリカには『ドクターヘリは健康に悪い』って論文だってあるくらい」。『ドクターヘリは健康に悪い』って論文は、探せば家のどこかにとってあるはずだ。

6.気負いすぎないしなやかさ
総合医って、お産とかも診るんですか?」

島で一番高い丘に連れていってもらったときに、N先生に聞いた。

「お産のときは基本的に、本島に前もって行ってあっちで入院しますね。

総合医がどこまで診るべきか、お産までやるべきかっていろんな意見があるけど、ぼくは総合医がどこまで診るべきかは医者が決めるべきじゃない、患者さんが望めばそれに応じるって形で、総合医がどこまで診るかは患者さんが決めることだと思いますよ」

おだやかな目を水平線にやりながら、N先生が言った。
こうあるべき、という頑なさは時に息苦しい。地域医療がどうあるかは、医者が決めるのではなく住民が決める、というN先生のしなやかさは今も記憶に新しい。


ちょうど2010年ころというのは、総合診療医学会と日本プライマリ・ケア学会と日本家庭医療学会が連合学会を作る前後だった。それぞれの学会で少しずつスタンス・考え方が違ったようだが、そこらへんもまた詳しいかた教えてください。

 

つらつらと覚えていることを書き連ねた。
漫画やドラマだと熱意をもったひとりの医者が片道切符で離島や過疎の村の地域医療を支える、というストーリーが多いけれど、実際には熱意だけでは長続きしない。
だから、地域医療を支える医者を支える役場や行政の仕組みづくりもとても大事だ。そこらへんは地味だからあまりドラマにならないんですけども。
地域医療を支えるすべての人に敬意を捧げつつ、それではまた。

 

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