本日、松下政経塾の塾生の方々向けに医療制度の講義をさせていただいた。
医療制度を論じるときには「3つのP」を考えよ、という。すなわち、Patient(患者), Provider(医療提供者), Payer(支払者)である(シンガポールでご活躍されているN先生から教わった)。
本日はそのなかでもとくにPayerの視点、お金について中心的にディスカッションを試みた。
平成26年度の医療費総額は約40兆円。高齢化と医療の高度化により年々増加している。
お金を論じるには収入と支出に分けて考える必要がある。
収入からみてみる。
財務省データによれば、平成25年度の予算ベースの医療費約42兆円(予算ベースなので実際と異なる)のうち約5兆円が患者さんの自己負担。約20兆円が健康保険料から出ている。保険料と自己負担だけでは医療費全体を賄えていないことがわかる。
不足分がどこから出ているかというと税金で、国庫から約11兆円、地方負担分が約5兆円(概算なので合計金額が約41兆円となっている)。
支出から見ると、約40兆円のうち入院関連が16兆円、入院外13.8兆円、歯科2.8兆円、調剤費7.2兆円(平成26度厚労省データ)。
さて、「医療費」ときくと反射的に「抑制」と言う言葉が出てくるくらい、医療費は抑制すべきものというアイディアが広くいきわたっている。
その昔疑問に思ったのは、「では適切な医療費っていくらなんだろう」ということ。
そう疑問に思ってあちこちの役所や団体に、「日本の医療費は、いくらが適切ですか」と聞いてまわった。医療行政を司る某省庁や医師の代表団体の一つにも聞きに行ったが、明確な答えをもらえたことはなかった。
某省庁は医療費の抑制を、医師の代表団体の人は医療費の増額を訴えるのだが、ではいくらならよいのか、と聞いてもその答えが返ってきたことはなかったのだ。
理由の一つとしては、それぞれの「あるべき医療の姿」と「それを実現するのにかかる費用(=医療費)」を冷静に考えていなかったということがあるかもしれない。
どの分野も、目の前のことをこなすので精いっぱいで、「あるべき姿」を考えている余裕なんかないのかもしれない。
答えがなかった理由のもう一つは、明確な数字を出してしまうとそこを出発点として譲歩と駆け引きが始まってしまうからかもしれない。明確な要求数字を出して譲歩するより、それぞれ「医療費抑制」と「医療費増額」の漠然としたスローガンのもとに綱引きを繰り広げたほうが、フリーハンドで自己主張できる、ということなのかもしれない。
本日はフリーディスカッションとして、「適切な医療費はいくらか。そしてその理由は」という議論を行った。「現在の医療費は適正」との理由で約42兆円という数字を挙げたグループもあったし、「そもそも皆保険制度なのだから、保険料収入の枠内でやるべき。自己負担もないほうがよい」という理由で約20兆円の医療費が適正というグループもあった。
個人的には医療費総額が約20兆円まで減らされたら、日本でできる医療行為は非常に貧しい内容にならざるを得ないだろうなと思った。
いずれにせよ、「医療費が増加して困る。抑制しなきゃ」というんであれば、「これこれこういう理由で、今の日本にとって適切な医療費総額はこれくらいですよ」と示す必要がある。
果たして日本の医療費は、いくらぐらいが適切なのだろうか。
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