3分診療のままでよいとは思わない。それでもなお、できることがある。
医者が薬を出すときに聞かれる言葉の一つが、「その薬、副作用はありませんか」だ。
たぶんその医者が真面目な医者であればあるほど困ってしまうと思う。副作用がゼロの薬はないからだ。
薬というのは人体になんらかの働きかけをする物質で、人体にとってそれがためになる働きだったらそれは薬の「効果」であり、人体に有害な働きだったら「副作用」だ。「効果」と「副作用」はいつもとなりあわせだ。
そこらへんのところは拙著3分診療時代の長生きできる受診のコツ45 | 髙橋 宏和 | 本-通販 | Amazon.co.jpにばっちり書かせていただいた。
はっきり言ってしまえば、すべての薬の副作用を暗記している医者はいない。びっくりするかもしれないが、もし薬の副作用が出ていても医者が必ずそれに気づくという保証はない。
フランスのグループが出した論文「パーキンソン病患者は副作用について自発的に伝えているか?」によると、パーキンソン病の患者さんに起こった薬の副作用のうち、自発的に医者に伝えられたのはたったの7%だという(①)。
この論文では、医者が「何か副作用とかありますか?」と尋ねたときに患者さんが伝える副作用の数と、そのあとに行うアンケート形式(薬の副作用一覧を見て選ぶ)のときに気づかれる副作用の数を比較した。
患者さんが副作用について自発的に医者に言わないのは、その不調が副作用だとは思わないからだ。
たとえば脚のむくみなんかもパーキンソン病の薬の副作用だが、この調査では脚のむくみの副作用を医者に自発的に伝えたひとはゼロだった。パーキンソン病の薬と脚のむくみは無関係に思えたというのがその理由である。
この論文を真摯に読むと、医者ならば身を正す思いになるかぞっとするかだ。
副作用が出れば患者さんは言うだろうし、医者なら見逃すはずがないだろう、というのは単なる思い込みだということがわかるからだ。副作用に気づかずに今まで大きな医療事故にあわなかったのは単なる偶然だったと思うと背筋が凍るかもしれない。
どんな薬でも副作用が出る可能性があること、まっさきに副作用に気づくのは誰よりもまず患者さん自身であること、副作用かもしれない不調があっても言葉で伝えないと医者にはわからないということ、医者は決して万能・全知全能なんかではないこと。
そんなことを知らないと、薬の副作用を避けることはできない。
新しい薬が処方されたり、薬の量が増えたりしたときは、今まで以上に自分の体の変化に敏感になっておかしいと思ったら医者に言葉で明確に伝えること。
一回飲んだだけで取り返しのつかない副作用にまで至る薬はまれで、ほとんどの場合「何かおかしいな」と思いながらもその薬を飲み続けているうちにだんだん副作用がこじれて大事に至る。薬の副作用も早期発見早期対応が基本で、その第一歩は軽い副作用の段階で「薬を飲み始めてから何かおかしい。副作用ではないか」と自分で気づくことなのだ。
体の不調が薬の副作用かどうか確かめるのはシンプルで、①薬を飲む前にはその不調が無かったか、②医者に相談の上で薬をやめたらその不調が改善するか、の二点に注目すればよい。副作用が可逆的なものなら、原因(=薬)が取り除かれれば結果(=副作用)も消えていくはずだ。
薬が始まったら自分の体の変化に敏感になり、冷静に観察する。
これこそが薬の副作用がこじれるのを防ぐコツで、それ以外に秘策はない。
①S,Perez-Lloret et al."Do Parkinson's disease patients disclose their adverse evens spontaneously?" Eur J Clin Pharmacol 2012 p.857-865