経営者は眠れない(R)

今回の話には2つ弱点がある。
一つは引用文献にバイアス、偏りがあるということ。
もう一つはぼく自身の実体験による部分が少なく、「机上の空論」「時代遅れの考え」と言われてもやむを得ないというところである。
それでもなお何か得るところがあれば嬉しいし、得るところが無い場合には忘れ去っていただいて構わない。エクスキューズはこれくらいで。

 

経営者というものは眠れないものだという。
明日仕事がうまく回るか、資金繰りは大丈夫か。
急に職場に出てこなくなる部下がいないか、納期はしっかり守れるのか。
そんなことを考えているうちに夜も更けて、気が付けば明け方近く。
経営者になって睡眠薬抗不安薬抗うつ薬と縁が出来た、なんて人も多いと聞く。

 

その昔、大先輩のセンセイに銀座の高級クラブ(クラブ↑ではなくクラブ↓のほう)に一度だけ連れて行ってもらったことがある。なんだかドラマみたいだなあと感心して端っこで飲んでいるといわゆるママが挨拶に来た。
仕事の話をちょこっとしたら、「私も経営者の端くれなんで、睡眠薬の××と抗うつ薬の○○と△△とそれから□□は手放せないの」なんて前に乗り出してきた。
華やかなネオンの裏の気苦労を知った若き日であったが、聞いてしまった以上は素直に酔えませんでした。

 

それはそうと。
経営者が眠れない最大の理由の一つは資金不足の心配だ。
銀行だっていつでもお金を貸してくれるとは限らない。
そんなとき、松下幸之助はこう考えたという。
「社員は金を貸してくれるだろうか」

 

<(略)“うちの社員は今何人いるだろうか。千五百人いる。彼らはどれだけ金をもっているだろうか。人によって違うだろうが平均十万円ぐらいもっているだろう。その十万円を借りよう。そうすると一億五千万円になる。それだけあれば、十分やっていける”(略)>(松下幸之助『経営のコツここなりと気づいた価値は百万両』PHP文庫 2001年 p.149-153。原本は1980年発行とのこと)。


本当にいざという時、銀行からもお金が借りられない時に、部下である社員から10万円を借りられるか。松下幸之助はそう考えたのだという。

いざという時には社員から10万円ずつ借りようと日々思っていると何が起こるか。
逆に言えば、どういう経営者なら、社員は大切な10万円を貸してくれるだろうか。

 

いわゆるブラック企業の社員は決して社長に金を貸さないだろう。
「会社がつぶれそうだ、君の貯金を貸してくれないだろうか」と頼まれたって、ブラック企業の社員なら「こんな会社つぶれてしまえばいい」と心の中で思うだけだ。
ブラック企業ならば、そもそも貯金ができるくらいの給与が出てるかどうかだって怪しい。

 

また、ただ単に人がいいだけの社長にも、社員は金を貸さないだろう。
事業を立て直して自分の金が返ってくる当てがなければ、社員は金を貸すはずがない。
この社長ならなんとか事業を立て直せるのではないか、という確信を与えられる程度の実力を常日頃見せてなければやはり社員から借金はできない。
もちろん普段から些細な約束を忘れるような社長ならば金が返ってくる保証はないし、どんぶり勘定で気前が良すぎる人も不安だ。

 

そう考えると、「究極の状況下で、社員は自分に大事な金を貸してくれるのだろうか」と考え続けることは経営者にとっても働く人にとっても決して悪いことではない気がする。
経営者がそう考え続けることで、他の会社にうつるよりは存続したほうがよい程度の労働環境、ある程度の蓄えはできるくらいの給与、社員が不安に思わないレベルの経営能力、貸した金が返ってくるだろうと思ってもらえるほどの信頼関係などなど、いろんなものが達成できるはずだ。

 

そして「もし究極の状況になったとき、社員は自分にかけがえのない貯金を自分に貸してくれるのだろうか」と布団の中で自問し、「これだけやってるんだから答えはイエスだ」と心の底から自答できるようになって初めて、経営者は安らかに眠りにつけるというものなのかもしれない。

 

経営者もたいへんだなあ。
(FB2014年11月25日を再掲)

 

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