welq問題を機に考える、モノを書くときにきちんとした引用が必要な著作権法以外の理由

「肩こりは動物霊のせい」でおなじみのwelq by DeNAが公開を中止した。

医療情報サイト公開中止 DeNA・守安社長、会見で陳謝(フジテレビ系(FNN)) - Yahoo!ニュース

社長は「成長を追い求めすぎた」と会見で述べたそうだけど、追い求めたのは成長じゃなく安易な利益なんだろう。

 

Welqが問題になったのは、他サイトからばんばん文章をパクってきて言葉を入れ替えて剽窃にならないようにしながらいい加減な記事を量産して、テクニックを駆使してgoogle検索上位を独占するようなことばかりしていたからのようだ。

医療関係者としてはいい加減な記事で読者を惑わせたことが腹立たしい。
病いに苦しみながらわらにもすがる想いでベッドの中、病気のことを調べまくっている患者さんというのはたくさんいる。検索サイト上位に出てくる情報っていうのはやはり信用してしまうのが普通で、たくさんの苦しむ人を平気でだましてきたってのは罪深い。

記事を書いていた人たちは医療知識もなく、他の医療サイトに書いてあることをかたっぱしからパクって組み合わせ、言葉をちょっと入れ替えて記事を量産していたようだ。
一つ一つの記事を検証する気力も時間もないのでそこは別の方におまかせしたい。

 

モノを考えるとき、モノを書くときにきちんとした引用をすることの大事な理由はいくつもある。
著作権的な話やオリジネイターに対する敬意以外に個人的に一番大事だと思うのは、自分のアイディアや思想を修正可能なものにしておくということだ。

 

完全にゼロの状態から一つの大きなアイディア・思想体系を作り上げられる人はいない。大きなアイディアや思想というのは、今まで先人が築いてきたものを土台にし、組み合わせてつくられる。

大きなアイディア・思想を一つの建物だとしたときに、その土台になる先人たちの様々な考えはレンガのようなものだ。

 

堅牢な建造物を作るためにはしっかりしたレンガが数多く必要だ。天高くそびえたつようなアイディア・思想体系を作り上げるにはたくさんの良いレンガが要る。歴史小説家が一つの小説を書くときにはトラック数台分の古書を買い集めるというし、思想家が一冊の本を書き上げるには部屋いっぱいの資料を踏まえるという。

インスピレーションだけで大きな思想的仕事が成し遂げられると思うのは間違いで、しっかりした思想的仕事にはたくさんの思考のブロックが必要なのだ。

 

で、モノを考えたりモノを書いたりするときに、引用範囲と引用文献をきちんと明示するクセをつけておかないとどうなるか。思考のレンガ・もとになるアイディアのブロックが融解するのだ。

自分の思想的仕事のうち、どこまでが引用元の考えでどこまでが自分自身で思いついたものかがあとになってわからなくなる。自分自身の考えといっても、今まで読み聞きしてきたものが渾然一体となって生み出されたものではあるが、さらにその渾然一体ぶりに拍車がかかる。
それではいけないかというと、いけないのである。

なぜか。
自分のアイディア・思想体系というものの基礎となる先人の考えが、突如として古くなったり間違いであることが判明したりすることがあるからだ。

例えばなにか論文を書くときに、STAP細胞の論文も引用して論文を作ったとしよう。
論文のお作法として、自分の論文のどの部分がSTAP細胞の論文から引用したアイディアかというのは明示される。

だからあとになってSTAP細胞の論文が虚偽だと判明しても、その部分のところだけ考え直す、書き直せば自分の論文は修正できる。
論文を建築物に例えれば、STAP細胞の部分の論理のレンガさえ入れ替えれば建物は崩れない。

だが、STAP細胞の論文からアイディアを引用しておきながら、どこまでが引用でどこからが自分のアイディアかを明確にしておかなければ、論理のレンガを入れ替えることができない。引用範囲を明確にしておけば入れ替え可能なレンガのままであったのが、引用範囲をあいまいにし、引用だか自分のアイディアだかも不明瞭にしてしまうと、レンガがまるでバターの塊みたいになってしまう。他の先人のアイディアも同様の扱いをしていれば、自分の思想体系の基礎となるものの一部が間違いだとあとからわかってもどこをどう入れ替えていいかわからない。
そのとき、自分の思想体系という建築物の土台はぐずぐずになり場合によっては崩壊してしまう。
Welqのあまたの記事も、どこまでが引用でどこからがオリジナルかが不明瞭(わざと不明瞭にしたわけだが)なために、修正不能な状態になっているのだと思う。

 

きちんとモノを考え、きちんとモノを書きたいと思うのなら、きちんとした作法で引用するクセをつけておかないといけない。そんなことをwelq事件は再認識させてくれた。

 
↓参照文献はきちんと明記しております。そういえば、近藤誠氏は一切参考文献明記しませんね。

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