カレーの話。
どんなに満腹の人にでも、必ず食べてみたいという気持ちにさせるカレーがある。
なにも特殊なカレーではない。
ふつうの人参とふつうのじゃがいも、ふつうの肉の入ったふつうのカレーである。
ある大学の、オープンキャンパスの日のできごと。
大学1年生の前に、大鍋いっぱいのカレーが置かれる。
講師が学生に聞く。
「このカレー、食べてみたい人はいますか」
昼下がり、空腹の者はおらず、誰も手を挙げない。
「誰もいませんか。
でも、これを作った人のことを知れば、きっと食べたくなるはずです。
では、作った方に、入ってきていただきましょう」
そう言って講師は、一人の中年女性を招き入れた。
講師が女性に聞く。
これ、いつも家族に作っているカレーですか?
「はい」と女性は答え、「特に次男はこのカレーが大好きで、こればっかり食べてます」と言う。
次男さんは今どこに?
「仕事でアメリカにいます」
ほう、ご次男さんのお仕事は?
「スポーツ関係です。野球選手をやっています」
失礼ですが、お名前は。
「鈴木といいます」
なんと、女性はマリナーズ(当時)のイチロー選手のお母さんだったのだ。
イチロー選手のカレー好きは有名で、彼は一時期まで毎朝毎朝カレーを食べて試合に出ていたそうだ。
そのイチローを育てたカレーが目の前にあるとなれば、誰だって食べてみたいと思うのではないか。
映画「おくりびと」の脚本家、小山薫堂の著書「もったいない主義」(幻冬舎新書 2006年)に出てくる話(p.19-21)で、最近読んでえらく感心した。
その場にいたら絶対食べていただろうなと思い、ブランドとか付加価値とかってことが、初めて体感できた。
ちなみに、この小山薫堂という人、根っからのカレー好きのようだ。
なにしろ「もったいない主義」では36回、「考えないヒント」(幻冬舎新書 2006年)では52回(うち5回は“カリ~”)も「カレー」という単語が出てくる。
(FB2013年7月25日を再掲)
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