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All you have to do is call, I'll be there.(R)

「もうダメなときもうダメな人に、何をしてあげられるか。
それこそが我々に問われているのです」。
フランスの24時間対応往診サービス、SOSメドサンの見学に行った際、会長のセルジュ・スマジャ会長がぼくに語った言葉だ。

 

SOSメドサンは今から数十年前、LASCARという医師によってつくられた。
「週末に水道が壊れても、修理の人はすぐに家に来てくれる。
それなのに、体の調子が悪いときに我慢するしかないのはおかしいじゃないか」。
そんな思いが彼をSOSメドサンの創設に駆り立てたと聞く。
http://www.sosmedecins-france.fr/index.p…/accueil/historique
今ではパリやその他の都市の人々が具合の悪いとき、「まるでピザの宅配を頼むように気軽に」SOSメドサンに電話をし、医師に往診をしてもらう。
その様子はマイケル・ムーア監督の映画『SiCKO』でも好意的に描かれており、ぼくもその映画を見て見学に行ったひとりである。

 

もちろん、SOSメドサンの往診サービスには通常の医療費に加えてきちんと特別料金がかかっていて、ペイできるような料金体系になっている。
電話受付時に、救急医やICU勤務経験のある医師により重症度を推測され(トリアージというやつですね)、重症そうであれば公的救急を呼ぶように指示されるし、往診で済まない場合には病院へ搬送される。
おそらくメインターゲットは、膀胱炎や腎結石、感冒などといった、本人や家族はつらいが夜間救急外来では軽症として扱われる病気の人たちだと思われる。

つまりこのSOSメドサンという24時間往診サービスは、いわゆる訪問診療とは似て非なるものなのである。訪問診療でカバーされるのが重症すぎて病院に通えない末期がんや難病の方々であるのに対し、SOSメドサンは軽症すぎて救急外来に行くと後回しにされてしまうような人たちを対象とするわけだ。

 

日本の病院の夜間休日の救急外来は現在、すくなくとも医療者から見た場合に緊急ではないような軽症患者や「ちょっと心配だから来ました」なんていう『コンビニ受診』患者であふれかえっている。
ぼく自身も、当直中夜中の3時に「いつもの目薬がなくなったから処方してくれ」と叩き起こされたり、もうすぐ朝の4時半に「眠れない」と叩き起こされたりした。
そんな時にも努めて平静を装い対応するわけだが、もちろん頭の中では「なぜこの時間に目薬なんだ!」「もうちょいで朝なんだから起きてろよ!」という呪いの言葉がぐるぐる回っているわけです。
話を元に戻すと、そうした軽症患者や『コンビニ受診』患者の層をある程度吸収しているのがSOSメドサンであろう。

 

「電話をかけてくる人たちの中には、体のちょっとした不調で電話をかけてきて、実はさびしさや孤独といったことのほうが本当の問題である人たちもいます。
それでも、電話がかかってきた以上、私たちは必ずその高齢者の家を訪ねます。
利用者は何を望んでいるのか。
診てくれること、話をしてくれること、話を聞いてくれること、そして背中をさすってくれることです。
だから私たちは、電話がかかってくれば必ず行くのです。

 

今現在、病院に通っている人というのは、何かできる治療がある人です。
でも私たちの利用者というのは、病院に行く必要がないかもしれない人、行けない人、行っても何もやれる治療のない人たちなのです。
だから、もうダメなときもうダメな人に何をしてあげられるかこそが、私たちに問われているのです」
会長はそういうと静かにほほ笑んだ。

 

パリのSOSメドサンを訪ねたのはもう何年も前だが、折りに触れてこのときのやりとりを思い出す。
とりわけ、日曜日に行う公開講座用のパワーポイントをあと数日で完成させなければいけないのにほぼ手つかずな週後半、言葉を変えれば今夜のような<もうダメなとき>などはことさらである。

(FB2014年7月29日を再掲。週刊現代の記事のことはまた今度)

 

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