船橋市・中條医院を継承いたしました(その3)

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船橋市の中條医院を継承して2週間が経ちました。

毎日「ふなっしートレイン」に乗って通勤しております(本当)。

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新しくクリニックを始める機会などはそうそう無いので、記念に思いのたけを書きとめております。
前回、前々回はこちら↓ というわけで続きを。

 

hirokatz.hateblo.jp

 

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「で、お前はどうする?」

東京を取り巻く千葉、神奈川、埼玉、茨城のベッドタウンの医療リソースが手薄なことや、比較的軽症で安定している患者さんに対する維持的・早期発見目的の医療リソースが減少しつつある、なんて問題意識を前回、前々回書いてみました。これらはいうなればマクロ視点の話です。
で、マクロ視点の話は一段落させて、今度はミクロな視点での話。

医療行為が制度や法律によって左右されると痛感したのは2000年代のはじめのころ。
ぼくが医者になったのは1999年。介護保険が施行されたのは2000年(①)で、ギリギリ介護保険前の時代を医者として垣間見ることができました。
介護保険が出来てから家族の負担は明らかに減って、制度によって救われる人がたくさんいることをみたわけです。

もちろん制度改変は現場にとっていいことばかりではなく、例えば2000年代のはじめには唐突に「療養病床38万床削減」なんて話が出てきて混乱したり、「脳梗塞の場合、健康保険を使って病院でリハビリが出来るのは180日まで」(②)というルールが出来て困ったりもしました。

医療問題(③)の一定数はマクロ的な制度の問題、システム・エラーであると感じて、本を読んだり勉強会に出始めたのが2000年代半ばころ。

で、良い本読んだり勉強会に出たりしていろいろ学んで、それはそれでいいんだけど、いつも最後に聞こえてくるのは「で、お前はどうする?」という心の声だったわけです。
今まで知らなかった知識を得た、あるいは医療制度・医療政策の理解が深まったのはいいんだけど、じゃあその知識をどう活かすか、理解を行動にどうつなげるかといわれると、直接自分の診療行為が変わるわけではない。
行動につながらない知識や理解をどれだけ増やそうが、それは知恵ではなく単なる「お勉強」に過ぎないのではないか、と心の声が問うわけです。

あるいは、医療政策や医療制度について学べば学ぶほど、「まったく新しいことというのは役所の机の上で生まれるわけではない」ということがわかってきました。
訪問診療の公的制度ができる前から堀川病院では早川一光先生たちが患者さんのお宅を訪問していたし、もちろん昔から往診(④)というのもあった。
医療に限らず、公的制度というものは海外含むどこかでうまくいっている先行事例・成功事例を見つけてきて、それを全国展開するにはどう予算をつけ、どういう法律を作ったらよいか徹底的に研究して制度になるわけです。役所の人の頭の中だけから生まれるわけではない。新しいことが生まれてくるのはいつだって現場です。

かといって現場だけでは「いいこと」って全国展開できないし、現場の暴走・独りよがりの落とし穴もあるから、現場と役所は車の両輪ですね。

あるいは、医療に限らず地域おこしの成功事例の現場の聞き込みにいくと、必ずそこには「人」がいます。「誰々さんが来てから流れが変わった」「誰々さんがいなかったらうまく行かなかった」って話が、絶対に出てきます。

成功事例には仕掛け人だったり、強力なサポートしてくれる人だったり、成功事例にはかならずキーパーソンがいます。「○○システム」とかだけでは事態は動かない。

もっとも、半永久的にその成功事例が続くためにはキーパーソンだけに依存しすぎても続かないので、システム化が必要で、人とシステムもまた車の両輪なわけですが。

 

本を読むたび、勉強会に出るたびに聞こえてくる「で、お前はどうする?」という心の声にこたえるためには、なんらかの形で実践者にならなければならない。「で、お前はどうする?」の心の声もまた、中條医院を継承する一つの要素でした。

 

 <「多くの仕事をしようとする人は、いますぐひとつの仕事をしなければならない」

 マイヤー・アムシェル・ロスチャイルド 1744~1812>(⑤)

 

Destroy your business,あるいは「未来の医療は今と同じだろうか」

 

Destroy your business、あなたの仕事を破壊せよ。フィリップ・コトラーの言葉だと思い込んでいましたが、今回ググりなおしてみたらウェルチの言葉なんでしょうか(⑥)

誰か(や何か)があなたの仕事を破壊する前に、自分自身で自分の仕事を破壊せよ。どうしたら自分の仕事を破壊できるか考えることが新しい仕事の創造となる、ということで、ぼくにとって非常に魅力的な考え方です。

例をあげてみます。パソコンゲームで一世を風靡した会社がありました。しかしパソコンゲームで売り上げを挙げているうちに、携帯電話が出てきた。携帯電話というものは電話だけでなくゲームもできるらしい。このまま放っておけば、携帯電話用のゲームがどんどん成長して、パソコンゲームを駆逐するかもしれない。
どこか別に会社に携帯電話用ゲームで自分の会社が「destroy」される前に、自分たちで携帯電話用ゲームを作ってしまう。自分で自分の仕事を「destroy」する。

あるいは、ガソリン車を作っている自動車メーカーが、新興の電気自動車メーカーに「destroy」される前に自分たちで作っちゃう。

(もっといい例が出せるといいけど、力不足)

ぼくが従事している医療という分野は、継続性が大事なので、「リセット」する必要はありません。今まで通りに安定して良い医療を提供するのが何よりも大事です。そう簡単に「destroy」しちゃいけないと思う。

でも一方で、目を閉じて10年後の医療や病院を想像してみると、今と同じはずがない。
例えば昔はがんになれば治癒は望めない時代もあった。病院だってクレジットカード払いなんかなかったし、遠隔診療もなかった。
誰かが新しいアイディアを考えだし、新しい技術がもたらされ、新しいサービスが日々生まれていく。古いものはやはりゆっくりと「destroy」されていく。

 

今はまだ開発中の、涙で血糖値を測るコンタクトレンズ(⑦)が普及すれば、糖尿病のケアももっと楽になるし、そのほか思いもつかないような技術が、新しい医療を作っていく。ヘルステックと呼ばれる超魅力的な分野が毎日新しい地平を開いているのが今という時代です。

 

たぶんもう始まっているこのヘルステック革命、ヘルステック祭りにユーザー側として参加したい、というのもひそかな望みでもあります。祭りには会場が必要だし、参加するのにいちいち上司の許可をとらなくてよければ最高です。祭りは積極的に参加しないと楽しくないですからね。

 

なにより大事なD、そしてE

地域医療で大切なABCDというのがあります(⑧)。
Aはアンテナ。常にアンテナを張って、患者さんや地域の情報、新しい医学知識をキャッチする。
Bはバランス。医学的に正しいことと、患者さんが考えることがずれたり、最新の医学と地域の事情が合わない場合にうまくバランスをとる。

Cはコミュニケーション。患者さん、スタッフ、福祉・介護専門家や他のドクターとうまくコミュニケーションがとれないといけない。

Dはデイリー・ワーク。やっぱりね、デイリー・ワークがちゃんとできないと全ては机上の空論ですね。
とにかくまずDをしっかりやってまいります。
それができたら次はE。EはEnjoy,楽しみながら働いていきます!

(次でおしまいの予定)

 

厚生労働省介護保険とは」

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/201602kaigohokenntoha_2.pdf

②平成20年からは、治療継続で良くなる可能性があれば180日を越えることもできるようになったとのこと。
厚生労働省資料

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000079ry-att/2r985200000079tp.pdf

③雑な言い方ですみません。

④制度的には訪問診療と往診は別モノで、訪問診療は定期的に月2回とか訪問するもので、往診は患者さんが具合が悪いときだけ例外的に家に行くことですね。

⑤ビジネス哲学研究会編『心に響く名経営者の言葉』 PHP研究所 2008年 p.110-111

Kill Your Business Model Before It Kills You

⑦Forbes  JAPAN 2017年10月号 p.35など。
自治医科大学『地域医療テキスト』医学書院 2009年

 

 

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