引く医者、引かぬ医者part.8~多くの患者さんは、自分の病名を覚えていない、という話。

引く医者引かぬ医者の話。

「患者さんを主力としたチーム医療」とは何かを語る前に、非常に残念な事実を話さなければならない。
前提として、ぼく自身は軽症慢性期比較的ご高齢の患者さんの外来診療を生業としていて、限られた地域の限られた範囲の患者さんを観ているだけである。ぼくが観ているものが例外であることを願ってやまないが、まず第一に、通院患者さんには、自分が何の病名で通院しているか知らない人が少なくない。問診の中で、ほかの病院に通院していることがわかっても、「なぜ通院しているんですか?」と伺っても「…さあ?」という答えが返ってくることがしょっちゅうだ。
少なくない患者さんが、自分の通院している理由である正確な病名を把握していない。自分が内服している薬の名前や期待している効果を覚えていない。ただ、「白くて丸い薬を“飲まされている”」とおっしゃる。

チームというのは、共通の目的を持って各々が自発的かつ協調してこそチームとして機能する。
なんという病名の病気に対してのチーム医療なのかすらチームメンバーが把握していないのならば、有効なチーム医療とはなり得ない。

患者さんが自分の正確な病名も把握していないということが例外事象であることを祈るが、その責任は第一に主治医にある。なぜなら、プロだから。

主治医は、「もちろん病名は初めに説明している」というだろう。説明したのも事実だろうが、患者さんの記憶に残っていないのもまた事実なのだ。
医者はじめ医療者は24時間365日何十年も医療のことを考えている。医療者にとって、医療は日常だ。だから日常会話のごとく専門用語を使って話をするし、医療の現場では常識である様々な病気のことも、一回話せば相手が理解し記憶すると期待してしまう。
しかし患者さんにとって病気や病院は非日常だ。今まで聞いたこともない用語や概念を伝えられても覚えられない。
ぼくら医療者だって、パソコンや車の修理という畑違いの局面では、担当者の説明なんか頭に入らない。

だが主治医をはじめとした医療者は、あきらめるわけにはいかない。何度も何度もしつこく繰り返し、手を変え品を変え、病名や病気や薬のことを説明し患者さんに伝え、治療という目的を共有し、患者さん自身にチーム医療のメンバーになってもらうしかない。
なぜなら、我々医療者は、医療のプロだから。
(続く)

 

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45