白い天井を見続ける人と、白い天井を見続けた人へーアレックス・バナヤン『サードドア The Third Door』(東洋経済新報社)

〈人間、やはり一人では生きていけないのだろう。たった一人で生きていける人もいるが、大半の人は、家族がいて、友達がいて、そこでやっと自分の道に向かう梯子を上り始めることができるのではないかと思う。以前父が、
「年配の人はな、若い奴が夢に向かって上っていけるように、梯子をかけてあげるんだよ。自分だけでは、はじめの一歩は難しい。一歩をどう踏み始めるかをアドバイスするのが、経験をつんだ年配の人の役目なんだよ」
と言っていたのを思い出した。〉(滝田明日香『晴れ、ときどきサバンナ 私のアフリカ一人歩き』幻冬舎文庫 平成19年 p.221)

たった一人で、自分の部屋の白い天井を見つめ続けたことはあるだろうか。
埋まらない予定表。
過ぎていく時間。
前に進めぬもどかしさ。
どんどん引き離される、仲間との距離。
見えない未来。
自分はこれから、人生をどう切り開いていったらよいのだろう。
底知れぬ不安とつのる焦り、やり場のないいらだちに苛まれながら、できるのはただ、自室のベッドに寝転がり、白い天井を見続けることだけ。

 

そんな思いをしている人と、そんな思いをしていた人に読んでほしいのがアレックス・バナヤンの『サードドア』(東洋経済新報社)だ。

 

サードドア: 精神的資産のふやし方

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ペルシャユダヤ人の息子、アレックス・バナヤンは、USC、南カルフォルニア大学の一年生だった。医学部進学過程に在籍し、移民の子としてディスアドバンテージのすくないプロフェッショナルの道に進むはずだったが、彼の心には、消し難い思いが湧き出ていた。
ほんとうのところ、ぼくはどう生きたいんだ?

 

やる気の出ない自分に刺激を与えるべく、彼は重い体と心を引きずり図書館へ向かう。ビル・ゲイツみたいな人の伝記を読めば、人生のはじめかたがわかるのではないか。しかし、ビル・ゲイツの本には、アレックスの望むものはなかった。スティーヴン・スピルバーグの本にも、レディ・ガガの本にも、人生のはじめかたは書いていなかった。

 

〈そのとき、能天気な18歳の思考にスイッチが入った。
“誰も書いていないなら、いっそ自分で書くのはどうだ?”〉(上掲書p.8)

 

そして、アレックスは会いに行った。
スピルバーグビル・ゲイツウォーレン・バフェットラリー・キング、スティーヴ・ウォズニアック、クインシー・ジョーンズレディ・ガガ。現代アメリカのレジェンド、アイコンたち。
もちろん、ことはそう簡単に運ばない。
舗装されたまっすぐなハイウェイではなく、砂利や水たまりだらけ、時にヤブに覆われたロング・アンド・ワインディング・ロードをゆくポンコツ車の旅だ。
『サードドア』は、そんなアレックスと、メンターたちの、魂の旅路を描いた物語。

 

メンターの一人、エリオット・ビズノーが言う。
〈「1年半前だったよな。お前が初めて俺にコールドメールを送ってきたのは。実はその1カ月前に、俺は新年の決意として、誰かのメンターになろうと決めてたんだ」〉(p.331)

 

Walk on the wild side, Be yourself no matter what they say, and knock thousand doors.

『サードドア』は語りかける。

今、白い天井を見続けている若者には、ワイルドサイドを歩け、千の扉を叩け、と。

 

Help others, Be a mentor, Be someone's inside man.
『サードドア』は語りかける。

かつて白い天井を見続けていた大人には、誰かのメンターになれよ、若いヤツの夢に梯子をかけてやれよ。アンタも昔、そうしてもらったじゃないか、と。

 

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