人生の各ステージでお金と時間をどこにつっこむか問題。

お金と時間の使い方は、年代によって変わってくる。何が正しいかの絶対解はない。
 
たとえば若いときにがむしゃらに働いて質素倹約して早期に引退するFIREというライフスタイルがある。
FIREも資産形成もよいが、若い時に時間とお金を突っ込む価値があるのはやはり経験や体験である。
サイゼリヤで一晩中バカな話を友達とし続けるみたいな経験も、後から振り返るとどんなにかまぶしいことか。その思い出話をサカナに何十年後かに友人と飲めたりするから、思い出は最強の複利だ。
(↑いいこと言った)
 
では人生の後半戦はどうだろうか。
「四十歳までは勝つように、四十歳からは負けぬように」
かつて武田信玄はそう語ったという(小和田哲男『家訓で読む戦国』NHK出版新書2017年 p.105より孫引き。抄録版の『甲陽軍鑑』では当該箇所を見つけられなかったので改めて探してみる)。
もちろん人生後半戦でも体験・経験にもお金と時間を投入はするのだが、前半戦にはあまりなかったのが「負けないように」お金と時間を使うという感覚だろう。
大袈裟な話ではない。
たとえば仕事で精魂尽き果ててボロカスのようになり、あるいは他人のネガティブな感情を受け止め溜め込みすぎて自分がゴミ箱になったように感じた時。
そんな時に満員電車を避け、これ以上「負けない」ようにするためにグリーン車に乗る、みたいなことだ。あとは早め早めに休むとかね。
すり減らないように負けないようにすることは大事だ。なにしろ一回負けるとそのマイナスからゼロまでもっていくのが大変になってくる。
 
人生の後半戦、どこに時間とお金を突っ込むか問題。
自己啓発本、人生指南本というものを、40歳目前まで敬遠してきた。説教くさいのは苦手だし、何か誰かに安易に影響されるのも嫌だったからだ。
一番最初に手に取った人生指南本が大塚寿氏の『40代を後悔しない50のリスト』(ダイヤモンド社2011年)。著者は、リクルートにいるときに社内外で計1万人以上の人の失敗談を聞いてきたという。そして、多くの経営者や部長クラスの人たちが「40代の過ごし方」を後悔していることを発見した。そうした1万人の失敗談や後悔を集積したのがこの本である。

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初めて読む人生指南本だけに多くの学びがあった。
中でも一番大きかったのが、〈「人生で手に入れたいこと」を三つに絞り「円グラフ」に描く〉(p.45)だ(注)。同書によれば、40代はまわりの人や環境に振り回される時期だという。まわりに振り回されて状況に流されて10年を過ごしたら、その後に押し寄せるのは「自分は、自分の人生を生きて来なかったのではないか」という後悔。
その後悔を避けるために、著者は人生で手に入れたいことを三つに絞り、手に入れたい割合を踏まえて円グラフに描け、という。
たとえば「お金」「健康」「自由」を手に入れたいのなら、それぞれどのくらいの割合で手に入れたいかを円グラフにして可視化する。
「お金欲しい」と口ぐせのように言っている人も、円グラフにして書いてみると欲しい割合が10割ではないことに気づく。もしかしたら欲しい割合は「自由」のほうが大きいかもしれない。
 
これはやってみると面白い。もちろん人生のステージで手に入れたい3つは入れ替わるし、その割合も変わってゆく。
「人生で手に入れたいもの」というほど大袈裟でなくても、「自分が大事にしたいもの」に置き替えてもよい。
 
人生の後半戦で時間とお金をどこに突っ込むか問題を考えるのに、この「人生で手に入れたいもの」「自分が大事にしたいもの」を3つに絞り、それを円グラフに描いてみるという手法はたいへん有用である。
(注)ネットにあふれている、〈バフェットが「やりたいことを優先順位順にリストにして上から3つに注力する」と言った〉という話は、バフェット自身によって「そんなこと言ってない」と否定されている(バナヤン『ザ・サードドア』参照)。
(続く)