イスタンブール、1996年冬(R改)

その晩もイスタンブールは寒くて、ぼくらは日本人旅行客が集まる安宿、いわゆる「ジャパ宿」の二階の廊下にあるストーブの周りに座ってだらだらと話をしていた。
自分の部屋に帰ってもやることもないし部屋には暖房もないから心底冷える。
そもそもが部屋と言ったって大部屋も大部屋、部屋にどんと置かれた6つの二段ベッドのうちの一つの下の段だけが自分の占有スペースだ。
そんなところにいるくらいなら廊下の擦り切れた赤いカーペットの上でストーブの火を眺めていたほうがよほど良い。

 

芸大生の二人組の片割れがぽつりぽつりと言う。
「日本の寺なんかの建築には静けさを感じるんだ。無音で、ただそこにたたずんでいる。
ヨーロッパの石の建物、キリスト教の教会っていうのは、あれは音楽だね。
モスク、こいつには数学を感じる。あれはそのまんま数学だ」
彼の言っていることはさっぱりわからなかったが、虚勢を張ってぼくはうなづいた。
アヤソフィアやブルーモスク、スルタンアフメット・ジャミイは数学そのものなのか。

わからん。

 

芸大生は続けた。
北アフリカの村に5か月いたんだ。漆黒の肌を見たかったから。
途中で気付いたんだ、あ、おれってバカだって。
漆黒の肌の人たちってのはもっと南のほうのアフリカじゃないといないんだ。

北アフリカの人たちの肌ってのはもっと浅黒いからね。
でもめんどくさくなって、そのままその未開の村に居続けた」。
グーグルもウィキペディアもないころの話だ。

 

「おれがその北アフリカの地で会った奴の話。
そいつは小さな店をそこでやっていた。
おれが、なんでこんなところで商売しているんだってきくと、奴が言った。
『おれの金ではこの国に来るのが精いっぱいだった。でもおれの国よりはいい』。
奴はそうやってその国で成功して、また次の国へステップアップするつもりなんだ。
この次はどの国へ行くんだ。おれがきいた。
聞いたこともないような国名が返ってきた。
その次はどこに行く?まただ。また知らない国の名前。
その次は、その次は、と聞いていくと5つくらいの国の名のあと、奴は言った。
『アメリカ、そこが最終目的地だ』。
おれは聞いた。
その時、お前はいくつだ?
奴が答えた。
『わからん』、と」

 

しばしの沈黙。

 

四十歳過ぎの男性とともに旅をしている謎の美少女がぽつりと言った。

「日本だと首から下げるものは何でも売れるの」

男性と一緒に旅をしながら、イスタンブールのバザールでネックレスやナザール・ボンジュウを仕入れて日本で売るらしい。

数十円の原価で仕入れたものが、エスニックな雑貨店で千円とか二千円で売れていくそうだ。

目玉の形をした青いガラスのお守り、ナザール・ボンジュウのご加護だろうか。

 

あのころには街のあちこちに怪しい外国人のアクセサリー売りがいた。

ずいぶん前から見なくなったけど、イスラエルからの若者が多かったらしい。イスラエルには社会人になる前に世界を放浪する通過儀礼的な風習があるとかいうのを何かで読んだ。流浪の旅を強いられた祖先の経験を体感する意味があるとかないとか。

そうした世界放浪する若者を受け入れる体制も各国で整っていて、当時の日本だとそうした街角のアクセサリー売りは旅の小遣い稼ぎの一つだったようだ。

東南アジアで安く購入したアクセサリーをじゃらじゃらつけて「個人の持ち物」として無税で日本に持ち込み高く売って旅費の足しにする。「地回りの方々」にも話をつけていて、いくばくかを払って商売していた。

あのころは街に、偽もののテレホン・カードを十枚いくらで売るイラン人もいたなあ。閑話休題

 

イスタンブールの冬の空の下、「ジャパ宿」のダルマストーブが燃える。夜はふける。

謎の美少女は話を続ける。

「ヒッピーの人たちって面白いの。いまだに『いのちの祭り』とかやってるし」

12年ごとのドラゴン・イヤー、辰年に行われるカウンターカルチャーの野外イベントが『いのちの祭り』だ。1986年のチェルノブイリ原発事故がきっかけになったもので、1988年は八ヶ岳で開催されて約1万人が集まった。WIRED誌2012年11月30日の記事でさっき知ったばかりだけど。

ふと誰もが口をつぐみ、見えない天使がぼくらの間を通っていった。

もう何回目かの、沈黙。

 

「ハッピ・バースデー・トゥー・ミー、ハッピ・バースデー・トゥー・ミー」

突然調子っぱずれの歌が階段の下から聞こえてきた。

「ハッピ・バースデー・トゥー・ミー」

歌の主が階段を上ってきた。ジャパ宿で働くイスタンブールの若者の一人だ。

どうしたの?と誰かが聞く。

「彼女から連絡が来たんだ、やり直したいってね」

彼女?

「出稼ぎに行っていたドイツで知り合ったんだ。彼女はドイツ人なのさ。

もう何年も連絡がとれなかったけど、数年ぶりに電話が来たのさ。

ああ最高だ。ハッピ・バースデー・トゥー・ミー」

それはおめでとう。みな、口ではそう言いながら、それほど表情を変えることはない。

 

「長旅をしているとね」

もう1年以上ユーラシア大陸を一人で旅しているという女性が言う。

「“エア・ポケット”がいくつかあるの。
なんてこともない、名もない小さな町なんだけど、旅行者はそこで足を止めてしまう。

あれ、俺なんで一生懸命旅をしているんだっけ。

旅をして何の意味があるんだろう。

日本に帰ってなんになるんだろう。

“エア・ポケット”ではそんな思いにとらわれてしまう。

前に進む気が無くなってしまう。かといってその町に興味があるわけでもない。

ただただ無為にそこで日々を過ごしていく。そうやってずぶずぶと“エア・ポケット”に沈んでいくのね」

 

再び、沈黙。

 

芸大生の名前は聞き忘れた。四十男と美少女のカップルの名前も知らない。
トラムを降りてアヤソフィアとスルタンアフメット・ジャミイを横目に下りていく坂の途中にある、そのジャパ宿の名前はハネダン・ホテルといった。
今もまだあるのかは知らない。
アメリカを最終目的地にして小さな店をしていたというそのアフリカの男がどうなったかも、もちろんぼくが知るはずもない。大統領が変わってからというもの、アメリカの入国は厳しいようだけど、彼は無事にアメリカで商売できているのだろうか。

イスタンブールの若者は、ドイツ人の彼女と再会したのだろうか。

すべてはイスラム国もメールやSNSも、トランプ大統領もまだない、1996年のこと。

寒い夜に、ふと思い出しただけの、なんでもない話。
(FB2014年2月19日を加筆再掲)

 

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

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知恵者の話ーメイク・トゥモロー・グレート・アゲイン(R改)

世の中にはすごい知恵者がたくさんいる。
誰もが仕方ないよと肩をすくめるような苦境も、そんな知恵者にとっては自分を試すチャンスだ。
正直うまくいくとは限らないが、叩けばこそ扉はひらかれる。
 

知恵者の話その1.

九州にあるGという会社のK社長にお会いしたのは数年前。
Gはレストランや結婚式場を手広くやっている会社だが、そもそものスタートがわくわくするものだった。
傾きかけた旅館のあとつぎだったK社長は、まわりの農家が規格外で出荷できない野菜をもてあましているのをみてふと思い付いた。

 

「誰も買ってくれない野菜だったら俺が買ってやろうじゃないか」
農協にだけ出荷していて日々の現金収入があまりない農家は、お金にならない規格外の野菜が現金になるなら大歓迎と格安でK社長に野菜を譲ったそうだ。若きK社長は自ら軽トラックを転がし山々を回って長すぎるニンジンや割れたキャベツ、形の悪いトマトを買い集めた。

 

買い集めた規格外の野菜の山を前に社長は腕を組んで考えた。
さてどうしたもんだろう。料理長はこんな形の悪い野菜を半端な数渡されても困る、こっちは前々から献立を考えてるんだし、勝手な真似をしてもらってもね、と渋い顔だ。普通ならここで引き下がるところだがK社長は違った。

 

あるものでなんとかやってくれ。
腹をくくって料理長を説得する。自分が板前の修行をしたからこそ説得できたという。
かくして規格外の野菜をメインにした、バイキングスタイルのレストランが誕生した。
バイキングスタイルなら途中で材料の野菜が切れてもメニューを変えればすむ。
見た目の揃った料理を人数分並べる旅館のやり方とは真逆の方法だ。
原材料は形こそ規格外だがまさに地産地消の新鮮そのもの。
入荷する内容によってフレキシブルにメニューが変わるのもリピーターにとってはかえって嬉しい。
かくしてGは店舗を増やし今では都内にも店が出ている。

 

知恵者の話その2. 

売上倍増中のタタミ屋の話を以前にテレビで見たことがある。これもまた、知恵者の話。

 

残念ながらタタミ屋は斜陽産業だ。
そんなタタミ屋で売上倍増なんてどういうカラクリか興味津々で番組を観ていたら、その理由は大変理にかなったものだった。
深夜営業なのである。

 

生活の洋式化で、一般家庭でのタタミのニーズはどんどん減っている。
けれども視点を家の外に向けてみると、まだまだタタミのニーズはたくさんある。
飲食店のお座敷だ。和食系外食チェーンに居酒屋、寿司屋に鍋にうどん屋そば屋。
一店舗で何十畳ものタタミが使われている。

 

繁盛店ほどお客が出入りしタタミは汚れてすりきれる。
今まではタタミの入れ替えのときには営業を休まなければいけなかった。昼間しかタタミ屋が来てくれなかったからだ。

 

だがしかし牧歌的な時は過ぎ、今は激しい競争の時代だ。
ライバル店に負けるわけにいかない飲食店側は一日たりとも店を休みたくない。タタミの張り替えのために一日臨時休業すれば、何万何十万の売上を失い、客が他店に流れる。そんなときに深夜営業のタタミ屋ならば、夜の営業が終わり次の日の昼間の営業が始まるまでに全部タタミを張り替えてくれる。
タタミ屋側も一気に何十畳とタタミが売れる。

 

なんて頭のいい人がいるんだろうとぼくはテレビを見ながら感心した。働く側のタタミ職人サイドからしたら深夜に働かされるのは勘弁というのが本音かもしれないが。

 

社会が便利になり過ぎるのも考えものではあるが、きっとまだまだこれからもそういう知恵者が活躍していくんだろうなあ。

 

こんなふうに、ぼくは知恵者の話を聞くとわくわくする。
どこかの誰かが考えた新しい知恵が、停滞な今日を素敵な明日に変えていく。

(FB2015年2月17日、20日を加筆再掲)

 

↓病院を上手に利用する知恵、載ってます!

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

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ニューヨークのワニとインチキ医学(R)

ニューヨークのワニの話。

 

大都会ニューヨークである男が一心不乱に路上に灰をまいていた。
周りの人が不思議がって何をしているのかと尋ねる。
「人喰いワニを追っ払っているんだ」、男が言う。
何を言ってるんだ、ニューヨークに人喰いワニなんかいるわけないじゃないか、生まれてこのかた一度だって野良ワニなんか見たことないぞ、と周りの人が大笑いする。
男は真剣な顔をして言った。
「一度も見たことがないって?そりゃあそうだろう、俺が灰をまいているおかげだよ。灰をゆずってやるから100ドル払え」

 

その昔何かで読んだ話だ。
こんな男の灰に100ドル払う人はいないだろうが、「健康食品Xを飲んでいたおかげで私はがんにならなかった。健康食品Xにはがんの予防効果がある。今なら格安で売ってあげる」みたいな話に飛びつく人は多い。
たいへん不思議なことだ。

 

こうしたインチキ科学の例はあとを絶たないし、これからも繰り返し起こるだろう。
ロバート・L・パークは著書『わたしたちはなぜ科学にだまされるのかーインチキ!ブードゥーサイエンス』(主婦の友社 2001年。良書です)で「パスカルのかけ」というたとえを使って、どうして人はインチキ科学に騙されるのかを説明している。
パスカルはこういったそうだ。
「神が存在するかしないかを賭けることがあったら、神が存在するほうに賭けたまえ。神がもし存在すれば君の勝ちだし、もし存在しない場合にも失うものはわずかで済む」。


すなわちこういうことだ。
「健康食品Xが効くか効かないかを賭けることがあったら、効くほうに賭けたまえ。Xがもし効けば君の勝ちだし、もし効かない場合にも失うものはわずかで済む」。

「トクホ=特定保健食品」なんてものもあるが、もしかしたらトクホ食品も「パスカルのかけ」思考のたまものかもしれない。「効くかどうかはわからないけど、もし効けばいいし、効かなくても失うものはわずかじゃないか」と,担当者が思っているのかどうかはしらない。


 問題はある種の健康食品Xやらなにやらが常識はずれに高価なことだったり、もっともっと問題なのは「ふつうの薬や治療は体に悪いから、健康食品Xだけにしなさい」と万能ではないにせよ有効性がはっきりしている薬や治療をやめさせてしまうインチキな人間が後を絶たないことだ。

 

個人的には、人の弱みに付け込むそうしたインチキ人間がとっとと野良ワニに食われてしまえばいいのにと神に祈るばかりである。

インチキ医学にだまされる前に!↓ 

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

 

 

アノ芸名に隠された名前の法則がこんなにすごい!

 

みなさんこんにちは、寒い日が続きますがお元気ですか?

突然ですが名前って大事ですよね~。

ありきたりな名前では覚えてもらえないし、あまりにキラキラしてても冷やかされる。

ほんと、改めて名前って大事。ましてや芸能人ならなおさら。芸名ひとつで売れるかどうかが決まってきてしまうのです。

そんななか、編集部が大注目してるのがこの方!

能年玲奈あらため「のん」さんです!

 

改名の経緯はいろいろ言われていますが、この「のん」という芸名に秘められたとあるすごい法則があります(編集部調べ)。

それが

「の」の法則!

 

実は、日本で大ヒットするあるものに関する法則なのです。

 

 

「の」の法則とは…

「の」の法則とは、<日本でヒットする映画のタイトルには、必ず「の」が入っている!>というもの。

さっそくwikipediaで調べてみました!

日本映画興行第1位は2001年公開、『千と千尋の神隠し』!言わずと知れたスタジオ・ジブリの名作です。なんと興行成績、308億円!宮崎駿監督、さすがです。

もう一度この映画の題名を見てみましょう!

千と千尋の神隠し

もう一度。

千と千尋神隠し』

もう一度。

千と千尋神隠し』

おおっ!!

「の」が入ってる!

 

日本映画歴代興行収入第2位は!

じゃじゃん!

ハウルの動く城』!公開は2004年、興行収入196億円!

またしてもスタジオ・ジブリです。

題名をじーっと見てみましょう。

ハウル動く城』

「の」、入ってますね。

 

それでは第3位!

もののけ姫』、1997年公開興行収入193億円!

またまたジブリ

しつこいですが題名は

『もののけ姫』

「の」、入ってますね。しかも二つも!

 

ちなみにこのランキング、映画の興行が終わったものだけをまとめたものらしく、現在大ヒット中のあの映画は入っていません。

現在大ヒット中のあの映画と言えば…

そう、『君名は』。

やっぱり「の」が入っているんです!びっくり!前々々世!!

 

そのほかにも日本で大ヒットした映画と言えば

『崖ポニョ』、『借りぐらしアリエッティ』、『風ナウシカ』、『永遠0』、『世界中心で愛を叫ぶ』、『南極もがたり』、『子猫もがたり』、『ジュラシックパーク』、『ET』などなど、「の」のつく題名ばかりなのです!

 

そんな「の」の法則にあやかって芸名をつけたとも言われている「のん」さん!

なんと現在、声の出演をしている映画が大ヒット中です!

その名も…

『こ世界片隅に』!

またもや「の」の法則!

大ヒット間違いなし!

いかがでしたか?
みなさんも身の回りの不思議な法則、探してみてくださいね!

それではっ!

編集後記)“キュレ―ション”系の記事文体をマネしてみたくて、つい…。

「の」がつく題名の映画(宮崎アニメ限定)は大ヒットする!という元ネタは、その昔日本テレビの宮崎アニメの宣伝番組でほんとに言ってました。

また、『踊る大捜査線』と『風立ちぬ』はどうしても「の」が見つからなかったのでスルーしました。

関係者の方々、失笑しながら見過ごしていただければ幸いです<(_ _)>

冬眠志願

(レ:レディー我賀山  フ:ファースト田中)

レ、フ:どうもーこんばんはー

レ:レディー我賀山です。

フ:ファースト田中です。二人あわせて

レ、フ:『れでぃ~☆ファースト』です!

レ:いや~寒いですね~。

フ:ほんと寒いね。

レ:したいね~、冬眠。

フ:したいね、冬眠。冬眠!?

レ:そうそう冬眠。ぼくね、昔っから憧れてるんすよ、冬眠。

フ:なんでよ?

レ:だってさ~よさそうじゃないですか、ぬくぬくとひと冬寝てるんですよ、冬眠。なーんもせんで、冬じゅう、最高やない。

フ:まあわからんでもない。

レ:冬眠中はね、カロリー消費を抑えるために心拍数もぐーっと下げて体温も低めになるらしいで。

フ:なるほど。

レ:ええなー心拍数低め、憧れるわ―低体温。

フ:なんでやねん。

レ:クマとかもですね、さっむいなかすやすや~ゆうて寝てるわけですわ。

フ:まあね。

レ:あれ不思議なのはね、なんでクマって冬眠中に床ずれとかできへんねやろ。人間やったら確実に床ずれできるで、冬眠中。

フ:聞いたことないわ、床ずれしたクマなんて。

レ:おらんのかな、床ずれっクマ。

フ:りらっくまみたいに言わんといて。ぼくら知らんだけで、ほんとは床ずれできてるクマもおるかもしれへんで。

レ:あ、そうか、わかったで、ぼく。ゆうても冬眠したクマが全部春になったからゆうて起きてくるわけやないんや。

フ:どゆこと?

レ:だから冬眠したまま起きてけーへんクマもおるんやないの?

フ:冬眠したつもりが永眠やったってやつね。

レ:そういうクマは腐るんやろね、冬のうちに、木の中で。春になったら腐乱死体や。

フ:いややなー、それ。

レ:なかには自分が腐乱してることに気づかずに街をさまようクマもおるね、ゾンビックマ。

フ:やめろや気色悪い。

レ:そういうかわいそうなクマを描いた話があれや、『起きてこなかったクマ』。

フ:童話か!『かわいそうなゾウ』みたいに言うなや!

レ:「かわいそうに春が来てもクマは起きてきませんでした」

フ:しんみりしてまうな。

レ:「ハチミツのツボはいつまでも持ち主が起きてくるのを待っているのでした」

フ:プーさん!?

レ:「クマの魂は天に召されていきました」

フ:やめろや。

レ:「パトラッシュ、ぼくはもう疲れたよ」

フ:『フランダースの犬』か!

レ:『腐乱したんだーすのクマ』やね、正確に言うと。

フ:あほかいな。

レ:そんなわけでね、しゃべればしゃべるほどサムいんで、ぼくらこれから冬眠します。

フ:漫才せえや!いいかげんにしろ!

 

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

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感情負債仮説ー飲み会翌朝に「死にたくなる」のはなぜか

「飲み会はほどほどで切り上げるようにしてるんです。あまり盛り上がりすぎると翌日死にたくなるから」

ある時、同僚のある医師が言った。

「なんというかね、人間のポジティブな感情の総量は一定で、飲み会とかで盛り上がり過ぎるとそのポジティブな感情を使い切ってしまうんじゃないかな。使い切ってしまうどころか、翌日のポジティブな感情の分まで借金して使ってしまって、それで翌朝どよんとして死にたくなるくらい落ち込むんじゃないかと思うんだよね」

 

前日にポジティブな感情を使い過ぎると翌日つらいという指摘、非常に興味深い考え方だと思う。

睡眠研究の大家であるウィリアム・C・デメントがその著書『ヒトはなぜ人生の3分の1も眠るのか?』(講談社 2002年)で紹介している<睡眠負債>にあやかり、<感情負債>と呼んでみることにする。

 

睡眠負債は要するに蓄積した睡眠不足のことだ。
<蓄積した睡眠不足のことを「睡眠負債」と呼ぶのは、それがお金の負債と同じで、いつか返済しなければならないからだ。負債額が大きいと、それだけ危険な影響も増大する。また負債がたまりにたまっていると、ほんの少し返済しただけで驚くほど状態が改善されるようだ。基本的に睡眠負債は圧縮できない。つまり、ふだん八時間眠っている人が、ある晩五時間しか眠らなかった場合、次の晩に不足分の三時間を足して十一時間寝ないと、一日を快調に過ごすことはできないのだ。>(上掲書 p.50-51)

 

これと同じように、ポジティブな感情を使い過ぎると翌日返済しなければならないのではないか、というのが感情負債仮説だ。

厳密に証明するにはドパミンだのセロトニンだのの脳内物質をリアルタイムで計測したりしないといけないだろう。そうしたことは今のところ難しいから、感情負債仮説はまだまだ仮説に留まる。

だが飲み会の翌朝のどよんとした気分や、なにか大きな仕事が終わったあとの燃え尽き症候群などの現象は、単なる二日酔いや身体の疲れだけでは説明できない部分がある気がする。そうした飲み会翌朝に「死にたくなる」感じや燃え尽き症候群は、もしかしたらこの感情負債仮説で説明できるかもしれない。

 

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

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必要とファッションー『コーヒー片手に買い物女子』とB系の共通点についての一考察

テレビ番組『怒り新党』の中で、「スタバなどでテイクアウトしたコーヒーを片手に買い物するオシャレ女子を見かけるがいかがなものか。あれはいい女アピールなのか」みたいな話をやっていた。

いるよなーそういう人とか思いながら見ていたのだが、その中で「そんなにコーヒー飲みたいなら持ち歩かずに家で飲めばいいのに」というくだりがあってふと思いついたことがある。

スタバとかのコーヒーをテイクアウトして飲みながら街を歩く、というおおもとはほぼ間違いなく『セックス・アンド・ザ・シティ』とかのアメリカ映画のイメージから日本に入ってきたんじゃないかと思う(ふと思い立って検索してみたが、『セックス・アンド・ザ・シティ』の中国語題名は『欲望都市』や『慾望城市』らしいですな。『欲望都市』って。ちなみに『デスパレートな妻たち』の中国語題名は『絶望主婦』らしい。『絶望主婦』。「絶望した!料理が下手なことに絶望した!」とか言うんだろうか、よう知らんけど。閑話休題)。
で、ふと思いついたのは、このコーヒーをテイクアウトして街で飲むっていう海外の風習は、もしかして軽減税率と関係してるのかなーという仮説。

 

消費税が高い国では、食品などの生活必需品には消費税がかからなかったり、税率が安かったりする。

そうした国では、テイクアウトのほうが税金が安かったりする。

例えば同じドーナツでも店で食べる場合には『外食』=『ぜいたく行為』扱いで消費税が高いけど、持ち帰りの場合には『食品』=生活必需品扱いで税金が安いなんてこともある(参考サイト①,②)。

確かめる気力はないけど、国によってはコーヒーを店内で飲むときより、テイクアウトで持ち帰るときのほうがかかる税金が少ない国もあって、そうした国ではみんな節約のためにテイクアウトして外で歩きながらコーヒーを飲むような傾向にあるのではないか、と思いついたわけです。
もしそうだとすると『コーヒー片手に買い物女子』が「外国みたいでイケてる」と思ってやっている行為は、ファッションではなく生活の必要性から生まれたことを知らずに模倣していることになる。
だからと言ってどうでもいいけど、もともと必要性から生まれた行動がファッションになっていく現象はほかにも見かける。

世代的にパッと思いつくのはB系のスタイルだ。
わざわざ言うのも恥ずかしいけど、hip hop文化にルーツを持つストリートスタイルで、キャップやフードを目深にかぶり、数サイズ大きめなダボッとした服を着る感じのやつですね。
もともとはアメリカのhip hop系の人々がやっていたスタイルだが、hip hopはギャングスタでハードコアな人たちが始めた音楽文化で、発祥当初のあちらのミュージシャンはマジでギャングの一員の人たちも多く、敵対するグループと抗争したり警察に追われたりしていた(いる)。
キャップやフードを目深にかぶるというのは、まあ要するに普段から面(メン)が割れないように顔を隠すという生活上の必要性から始まったスタイルなのでしょう(参考映画『スタイル・ウォーズ』。別の映画だけど『CB4』とか面白かったですね)。

また、数サイズ上の大き目なダボッとした服も、一説には服の下に銃とかナイフとか忍ばせやすいからという生活上の必要性から着始めたという話で、だからダボダボのパンツの裾をめくって足首見せるっていうのは「足首に銃とかナイフとか忍ばせてまへんで」という警察や敵対するギャングに対するアピールなんでしょうな、もともとは。

 

そんなわけでもともと生活上の必要性から始まった行為がいつの間にかファッションとして広がっていくのはよくある話で、だいたい男性のスーツ姿だって寒い国発祥のものがファッションとしてグローバル化しているわけだしなー。コンゴのオシャレ男子「サプール」の人たちって暑くないのかなー。

 

まあ「テイクアウトしたコーヒー片手に街で買い物」がもともとは軽減税率との絡みから生まれたスタイルなのではないかってのはただの仮説でして、詳しいこと御存じのかたはご教示くださいませ。

そろそろ夜も更けたので、『さんぴんキャンプ』のDVDでも観てから寝ることにします。では。

参考サイト)①

欧州で見てきた消費税軽減税率の現実 とても煩雑!テイクアウトと店内食の区別|森信茂樹の目覚めよ!納税者|ダイヤモンド・オンライン

軽減税率をめぐる、日本とアメリカの常識の違い | 冷泉彰彦 | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

 

 

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

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