ニューヨークのワニの話。
大都会ニューヨークである男が一心不乱に路上に灰をまいていた。
周りの人が不思議がって何をしているのかと尋ねる。
「人喰いワニを追っ払っているんだ」、男が言う。
何を言ってるんだ、ニューヨークに人喰いワニなんかいるわけないじゃないか、生まれてこのかた一度だって野良ワニなんか見たことないぞ、と周りの人が大笑いする。
男は真剣な顔をして言った。
「一度も見たことがないって?そりゃあそうだろう、俺が灰をまいているおかげだよ。灰をゆずってやるから100ドル払え」
その昔何かで読んだ話だ。
こんな男の灰に100ドル払う人はいないだろうが、「健康食品Xを飲んでいたおかげで私はがんにならなかった。健康食品Xにはがんの予防効果がある。今なら格安で売ってあげる」みたいな話に飛びつく人は多い。
たいへん不思議なことだ。
こうしたインチキ科学の例はあとを絶たないし、これからも繰り返し起こるだろう。
ロバート・L・パークは著書『わたしたちはなぜ科学にだまされるのかーインチキ!ブードゥーサイエンス』(主婦の友社 2001年。良書です)で「パスカルのかけ」というたとえを使って、どうして人はインチキ科学に騙されるのかを説明している。
パスカルはこういったそうだ。
「神が存在するかしないかを賭けることがあったら、神が存在するほうに賭けたまえ。神がもし存在すれば君の勝ちだし、もし存在しない場合にも失うものはわずかで済む」。
すなわちこういうことだ。
「健康食品Xが効くか効かないかを賭けることがあったら、効くほうに賭けたまえ。Xがもし効けば君の勝ちだし、もし効かない場合にも失うものはわずかで済む」。
「トクホ=特定保健食品」なんてものもあるが、もしかしたらトクホ食品も「パスカルのかけ」思考のたまものかもしれない。「効くかどうかはわからないけど、もし効けばいいし、効かなくても失うものはわずかじゃないか」と,担当者が思っているのかどうかはしらない。
問題はある種の健康食品Xやらなにやらが常識はずれに高価なことだったり、もっともっと問題なのは「ふつうの薬や治療は体に悪いから、健康食品Xだけにしなさい」と万能ではないにせよ有効性がはっきりしている薬や治療をやめさせてしまうインチキな人間が後を絶たないことだ。
個人的には、人の弱みに付け込むそうしたインチキ人間がとっとと野良ワニに食われてしまえばいいのにと神に祈るばかりである。
インチキ医学にだまされる前に!↓