明日5月15日月曜日、20時から渋谷クロスFMで『高橋ひろかつのradioclub.style』放送です!
お相手は旅人のアッキーこと大谷 明氏, ゲストは東京大学大学院で医療福祉の生産性を研究中の阿部真美さん。明日のテーマは『あたりまえ&生産性』です。
20時から上の渋谷クロスFMサイトでご視聴できます!
ぜひごらんください!
「民主主義って正しいってみんな無条件に信じてるけど、ほんとかな?
日本は確かに民主主義だけど、<失われた10年>なんて言われるようにずーっと経済がうまくいっていないよね。
それに比べてシンガポールはたしかに独裁国家だけど、ぐんぐん経済発展している。
そういうシンガポールに住んでいると、民主主義が絶対的に正しいなんて疑問に思うんだけど、どう思う?」
シンガポールで活躍しているNさんにそう話を振られたのは数年前。
唐突にそんな話を振られてぼくはちょっと面食らったけれど、なんとか答えをひねり出して言った。
民主主義と独裁国家ですか。
うーん、民主主義のほうが<勝率>が高いんじゃないでしょうか。
勝率?
Nさんが聞き返す。
確かにシンガポールは独裁国家で経済発展してるけど、経済発展してない独裁国家ってたくさんありますよね。アフリカ大陸なんか見れば、経済的に失敗してる独裁国家が山ほどある。
民主主義って物事を決めるのに右往左往して時間がかかるけど、暴走を食い止めたり問題が小さいうちに異論が出て軌道修正される仕組みがビルトインされてるから、民主主義のほうが国としての勝率が高いんじゃないでしょうか。
そんなことをぼくは言い返した。
Nさんはふーんとつまらなそうに言って話題は次に流れたけれど、その時のぼくの答えが正しかったどうかは今もってわからない。
後になって、そもそも問いの設定に無理があったことに気付いた。
<経済停滞した民主主義国家>と<経済発展した独裁国家>を比較してはいけなかったのである。
民主主義が独裁より優れているかどうかは、<経済停滞した民主主義国家>と<経済発展した独裁国家>を比較するのではなく、<経済停滞した民主主義国家>と<経済停滞した独裁国家>を比較するか、<経済発展した民主主義国家>と<経済発展した独裁国家>を比較しなければならなかったのだ。物事を比較して論じるには、検討する要素=変数を一つに絞らなければならないというのは実験の基礎の基礎である(ただし変数同士が独立事象の場合)。
まあ民主主義がよいものか優れたものかは運用次第でもある。ナイフで美味しい料理を作るか他人を傷付けるかは使い手次第なわけで、主義=イズムもまた然りなのだ。
大事なことなので確認しておきたい。
なにかものごとを比較するときには比較すべき要素を一点にしぼらなければならない。
つまり民主主義と独裁主義の優劣を比べて論じるには「経済発展している独裁国家」と「経済発展している民主主義国家」を比べてどちらに住みたいかを考えたり、「経済停滞している独裁国家」と「経済停滞している民主主義国家」を比べてどちらがマシかを考えなければならない。
ほかの条件を全部同一にして論じてはじめて、民主主義と独裁国家の制度としての優劣が決められる。
このことに気づかせてくれたのは飯田泰之著「ゼロから学ぶ経済政策ー日本を幸福にする経済政策のつくり方」(2010年 角川oneテーマ21)であった。
飯田氏は同書の中で経済学についてこんなふうに書く。
<(略)どうしても「経済学者はなにかというとカネカネ言うけど、世の中お金だけじゃない」という反応をされてしまうかも知れません。しかし、経済学者は「お金だけが大切」とか「お金さえあれば幸せ」なんて話はしていないのです。明確な目標に出来て、それゆえに具体的な対策がつくのがお金の問題だ。だからまずはお金に関する幸福度を上げることから始めようじゃないか(その他のことは別途、そして並行してその分野の専門家が考えればよい)というわけです。>(上掲書p.22)
<それでもなお「やっぱり経済成長よりも人間の幸福が重要ではないか」という反論があるかも知れません。例えば、「経済学者は『みんなにとって悪いことじゃないから経済成長』だと言う。しかし、政策の目標が幸福を目指すということなのであれば、それは必ずしも経済成長を目指すこととイコールではないはずだ。むしろ経済成長を犠牲にしてでも、もっと我々が幸福に暮らせるような社会を目指すべきなんじゃないか」といった批判が典型でしょう。しかし、このように倫理的で、そして一見尤もらしく聞こえる言葉ほど、よくよく気をつけなければなりません。
経済成長とは別の幸せがあるーこれは当たり前のことでしょう。それを否定する人は(経済学者も含め)いないのではないでしょうか。まったくもって正しいがゆえにこの言及には意味がないのです。「カネだけが幸せではない」「カネがあっても幸せとは限らない」という主張から「カネがあると幸せになれない」という主張は導かれません。
「経済成長をしても”別の幸せ”は特に下がるわけではない」ならば経済成長はあった方がよいでしょう。つまりは、他の事情を一定として経済的な豊かさが向上するならば、それはすばらしいことなのです。>(p.23-24)。
<他の事情を一定として>というのがキモで、もしお金を稼ぐために何かを犠牲にしなければならないなら話は変わってくる。つまり、お金は稼げるが過労死するほどの激務とか、家族や友人と過ごす時間すら売り払ってお金を得るなどは別の話だが、「他の事情が一定ならば」お金はないよりあったほうがよい。
冒頭の民主主義と独裁を比較する話も、「他の事情を一定にして」論じなければならない。
経済学では、「他の事情が一定ならば」お金はあったほうがよい。
お金で買える幸せは限られるが、お金で回避できる不幸はたくさんある。医療機関で働いていると毎日痛感させられる。
マクロ視点でみると富はあるに越したことはないのだが、しかしミクロで見るとそう単純に語れないところがおもしろい。
お金というものが発明されて以来、このマネーという奴は人間の悩みの種で様々な喜劇と悲劇を生み出してきた。
黒人音楽ブルースの主題で一番多いのは愛でも恋でも性でもなく、「マネー」だという(テレビ東京の番組「タモリの音楽は世界だ」で昔言っていた)。
日本文学の世界、特に諧謔文学でも、ありがちなネタしか無くて展開につまったら「それにつけても金の欲しさよ」とつけておけばよいといわれている。
すなわち、「古池や 蛙(かわず)飛び込む 水の音/それにつけても金の欲しさよ」とか「秋深し 隣は何を する人ぞ/それにつけても金の欲しさよ」とか「まっすぐな道で さみしい/それにつけても金の欲しさよ」とかいった感じである(後ろの二例はなにかやらかしそうな気配がぷんぷんするが)。
こんなふうにたいていの場合、人間というものはマネーが無くて困るが、ありすぎて困ることもある。
シェイクスピアの『リヤ王』は、持てる者の悩みでもある。
遺産争いではなまじお金があるがゆえに親族同士血で血を洗う争いになる。
宝くじにあたった途端、会ったことのない親戚や親友がわんさか現れて身ぐるみはがされる。
アメリカで高額宝くじに当たった人は高率にその後自己破産するというし、MCハマーや多くのヒップホップスターたちも大金稼いで身を滅ぼした。日本だと小室哲哉や沖縄の歌姫の物語もある。
あればあったで困る、なければないでもっと困るというのがこのお金という存在なのだ。
人生に必要なのは希望と勇気とサム・マネーとチャップリンも言う。
サム・マネー、少しばかりのお金というのがチャップリンの憎いところで、これがつかむぜビッグ・マネーだったら浜省である。
ドンペリニヨ〜ン。
独裁と民主主義の話をしていたらいつのまにかマネーの話になってしまった。主義=イズムが使い手次第であるのと同様に、マネーもまた活かすも殺すも使い手次第だ。
そんなわけでもし悩みの種になるほどのマネーがある方がいたらぜひご一報いただきたい。
ひとの役に立つことこそ我が喜び、責任もって誠心誠意、ぼくが処理して差し上げたいと思う。
(FB 2015年4月24日、27日を加筆再掲)
↓健康あってのマネーです。
↓ラジオはじめました。
連休明け、乗っていた通勤電車が遅れることが続いた。
ネット情報だと某路線では「本日、多数の駅で体調を崩されるお客様が続出しているため、電車が遅れております」などというアナウンスがかかったそうで、まあ連休明けに仕事に向かって気分が悪くなってしまったりするんでしょうな。
古人曰く、<人間は、働くようには作られていない。働くと疲れるのがその証拠である>。
そうはいっても働かずに生きていける人なんてのは一握りで、どうにかこうにかみんなえっちらおっちら職場に向かうわけである。そりゃあ具合も悪くなるというものだ。
どこかしら我慢を抱えた通勤途中、電車の遅れというのは正直イラッとくるものの一つだ。
人身事故や車両のトラブルなどやむを得ない事情ではあるが、数十分遅れたりすると次の予定もあるしこちらも困ってしまう。
急ぎ過ぎて事故を起こすよりはマシ、何年か前には電車の運行を時間通りに行おうと無理した結果大きな電車事故が起こったこともあるし、平常心平常心と唱えるが、時には数分の遅れでもイライラしてしまったりする。
そんなときはインドの小話でも思い出して心を落ち着かせることにしたい。
何で読んだかは忘れた。
インドを旅行中の日本人観光客が列車の指定席券を買って、自分の座席に向かった。
指定された自分の席であるD4席に行くと、見知らぬインド人が悠々と座っている。
このやろう、図々しいやつだと猛烈に抗議するが相手は一向に動じない。それどころかお前のチケットを見せてみろと言う。
これでも見ろ、とインド人の鼻先に自分のチケットを突きつけてやるとインド人はこう言った。
「確かにチケットにはD4席と書いてますね。だが日にちが一日違ってます」。
んなわけあるか、間違いなく今日の日付だと怒ると、インド人は言った。
「私たちが今乗ってる列車は<昨日>の列車です。つまり出発が24時間ほど遅れてるんですな。
<昨日>の列車に乗るには<昨日>の日付の指定席券が必要です。私が持ってる券ですな。
あなたが持ってる券が使える<今日>の列車は、しばらく待てば来るんじゃないでしょうか。
たぶんね、明日には乗れますよ」。
24時間の電車の遅れとはびっくりするが、インド数千年の悠久の歴史を思えば24時間の電車の遅れなど誤差範囲。ましてや日本の電車の数分の遅れなど<ゼロ>に等しいというものなのである。
(FB2014年5月8日を加筆再掲)
ゴールデンウィーク早々ものすごい幸運に恵まれてしまった。
あまりのツキに、未だに夢の中にいるような気分である。
昨日の昼に届いた一通のE-メールだ。
見たこともない差出人の名前に、はじめのうちは半信半疑だった。
知らない人からのメールなんて、普通はほぼ鉄板でインチキや出会い系なのだが、他人に惜しげも無くこんなに素晴らしい申し出をする人がいるなんて。
まさにWhat a wonderful world。未来はバラ色である。
年末に買った宝くじも、明治時代なら家が買えるくらいの額が当たったし、今年は空前絶後のゴールデン・ラッキー・イヤーだと思う。
名はミスター・ジョンソン・ピータース/JOHNSON PETERS。
ビジネス上でぼくの助力が欲しいらしい。
格調高い英語で丁寧な自己紹介をした後、用件が簡潔かつ的確な表現で書かれている。
簡単に言うと、こうだ。
ある国の国営石油会社の主任会計士(senior accountant)で、石油の権益を管理し、外国と交渉する原油管理委員会と繋がりがある。
その国の油田を開発するにあたり、日本の銀行の口座が必要なのだという。
なんでも日本の企業が油田開発に投資するためだとか。
残念ながら彼の国の銀行では投資先の会社の信用がないし、彼は日本の銀行に口座を持つことが出来ない。
そのために、日本人の協力者(つまりぼく)の口座が必要なのだという。
日本の銀行に口座を開設できて投資を得られれば、すぐにでも原油が出る状況らしい。
原油が出た暁には彼に約1540万USドルが入るのだそうだ。
1USドル=110円とすると、約17億円!!!!
ぼくには25%をくれるという。約4億円あまり。
70%は彼と彼のパートナーが取り、残りの5%を諸雑費にあてるのだそうだ
日本の会社から投資を得るために、銀行口座を貸すだけで莫大な利益が得られる。
こんないい話は二度とないと思い、即座に自分の名前や住所、電話番号、
自分の銀行の口座番号や暗証番号などをメールで送った。
送って数時間後、ほんのさっきジョン(今ではニックネームで呼び合う仲だ)から電話があった。
嬉しそうな声でジョンが言った。
「ほんとうに有難う。心より感謝しているよ、マイベストフレンド。
言い忘れたけどマイフレンド、報酬は現物支給なんだ。
君のぶんの原油、いつ取りに来る?」
近いうちに、ナイジェリアまで分け前を取りに行く。
誰か、大きめのポリタンク貸してください。
(hirokatz.tdiary 2003年1月9日を加筆再掲。先日はフランスの大金持ちの未亡人、マダムAlice Aliからメールをいただきました)
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↓ラジオ番組始めました。
amazonマーケットプレイスを舞台に横行している詐欺は、いまだ収束していないようだ。
相場よりかなり安い値段と「出品者に対する評価」の☆がついていないこと、出品者のプロフィールが不自然な日本語であることなどが詐欺師ではないかと疑うポイントで、さっき(2017年4月30日未明)みたら、某ベストセラー本の最安値はやはりそういう出品者のままだったし、数万円するプロジェクターにも1900円くらいの新品を出品している業者がいた。あぶないあぶない。
今回のマーケットプレイス詐欺に限らず、一見幼稚に見える詐欺は多く、その理由は詐欺師が自らの生産性を高めるためだ、と先日述べた。
詐欺師の生産性ーamazon マーケットプレイスで詐欺が横行中 - カエル先生・高橋宏和ブログ
要するに、ひっかかりやすそうな人たちだけを選別して詐欺をするために、わざと稚拙な手口で詐欺被害者を「募集」するわけだ。いかにも詐欺ですよという文面に引っかかる人、優良なカモ物件は、途中で詐欺だと気付く確率が低い。詐欺師にとって無事最後まで詐欺が完走できるわけで、その選別を稚拙な手口によってしているという話である(ネタ元は瀧本哲史『戦略がすべて』新潮新書 2015年 p.137-138)。
そんなことを書いたら、「詐欺も二極化しているのではないか。稚拙なものと、巧妙なものに」というご意見をいただいた。なるほど。
稚拙な詐欺と巧妙な詐欺の格差は、詐欺を仕掛ける相手が違うことによって生まれてくる。
今回のマーケットプレイス詐欺や振り込め詐欺など不特定多数から詐欺対象を抽出する場合には稚拙な手口が採用される。一方、「これぞ」という特定のカモに狙いを定めて実施される詐欺は精緻で巧妙なものとなる。
「ぬるい」カモを探す場合にはあえて稚拙な手口の詐欺師が跋扈し、「太い」カモから巻き上げる場合には巧妙な手口の詐欺師が暗躍する。ローエンド詐欺とハイエンド詐欺とでも名付けよう。
ハイエンド詐欺の場合、カモられる側は狙われるだけの大金を持っている人々で、たいていの場合はそういう人は注意深い。ハイエンド詐欺では周到な準備が必要だ。
たとえば地下カジノで太いカモから巻き上げる場合には、店舗まるごとでっち上げ、店員もほかのお客も全部「仕込み」だったりするという。
他人の土地を売りつける「地面師」の場合も相当手が込んでいる。
ご用心! 不動産のプロまでダマされる「地面師」たちの手口(森 功) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)
こうした巧妙な詐欺師、ハイエンド詐欺師になればなるほど、見た目はフツーになってくる。いかにも詐欺師、というような風貌では、海千山千の「太い」カモは引っかからない。
水商売のプロの女性相手の詐欺師「竿師」も、ホンモノはむしろ地味だ。いかにもジゴロみたいな派手な風体ではダメで、男を見る目に肥えたプロの女性をだますには
<見てくれにしても、真面目にやるけれど不運続きで芽が出ない、といったような、優しい心の持主だけど、くすぶった様子が堅気の娘さんには気に入ってもらえず、恋人も出来ない独り者だから、月に二度ほど遊びに来るというような役柄がいちばんいい(略)>(安倍譲二『塀の中の懲りない面々』文春ウェブ文庫収載 「プロフェッショナル・トゥール」より)
のだそうだ。
「太い」カモ相手のだまし屋ほど、見た目は地味だ。
もっともスケールの大きいだまし相手といえば国家。国家規模のだまし屋であるスパイも、想像以上に地味だったりする。
<基本的にいって、情報部員は二つのタイプにはっきり別れる。
第一は誰の注意もひかぬ、特徴もない凡人である。彼は物静かで、落着いており、けっしてでしゃばらない。態度はしばしば控え目で、はにかみ屋でさえある。服装も地味、話しぶりも地味、物腰も地味である。これは特徴のない平凡な女性でもよい。道を通り過ぎても、誰もその女性を振り返ってみることはない。要するに、会ってから五分も経てば、忘れられてしまうような男女なのである。
もう一つのタイプは目立つ人で、脚光を浴びていなければ落ち着かないといった外交的な性格の持ち主である。(略)>(ウォルフガング・ロッツ『スパイのためのハンドブック』ハヤカワ文庫 1982年 p.96)
アルヴェス・レイスという国家規模の詐欺師もまた、そんな地味な見た目のだまし屋だった。「史上最大の贋金造り」と呼ばれた男である。
<その男は見たところどこといって何の変哲もない男だった。実際の齢は二十八歳だが、二十代も後半からにわかに禿げはじめた頭の恰好のせいで齢よりかなり老けて見える。長頭型でいくぶん色が黒く、ダークスーツに身を固めたごくありきたりの風采からすると、取り立てて学歴も門閥もない、小規模の貿易商社の責任者といった役どころだろう。>(種村季弘『詐欺師の楽園』岩波書店 2003年 p.269)
アルヴェス・レイスは1920年代、ロンドンのウォーターロー商会をだまして偽エスクド札を大量に印刷させポルトガルに持ち込み、そのお金で当時ポルトガルの植民地だったアンゴラの鉱山の利権などを買いあさった。最終的にレイスはつかまってしまうのだが、ハイエンド詐欺だけあって彼の手口もまた巧妙だった。
アルヴェス・レイスの詐欺の手法の一つに、時間差空間差を利用した詐欺がある。
<ナッシュ自動車との取引関係から彼はニューヨークの市中銀行に当座預金口座を開いていた。リスボンで小切手を振り出しても、これが船便でニューヨークに到着するまでには最低八日間はかかる。七日目に電報で裏書きをすれば、八日間は不渡小切手が有効であり、さらに、払い込みを忘れたか、遅れたことにすれば、もう一度ゴマかして小切手を切れる。
リスボンとニューヨーク間の空間的差異を利用して、不渡小切手で二十四日間有効な十万ドルの現金をまんまと握ってしまったのだ。>(種村季弘『詐欺師の楽園』p.278)
時間差空間差を利用して利益を上げるのはビジネスなどでもよく見られる手法だ。
以前、アメリカの証券取引所などは特定の顧客にほかよりも少しだけ早く取引情報を提供するサービスを行っていた。特定顧客はほかの顧客より少しだけ取引情報を知ることで、莫大な利益があげられたようだが、その時間差はわずか0.03秒。フラッシュオーダーと呼ばれるこの仕組みは、不公正として今は取りやめになっている。
実際、精密な詐欺と巧みなビジネスや政治の手法は紙一重かもしれない。
百兆円硬貨を1つだけ政府が発行して巨額な債務を帳消しにするなんてアイディアは普通の生活者からすればトリッキーだし、タックスヘイブンの話なんかもやはり紙一重だ。そのギリギリ紙一重の差が大事だともいえるんでしょうが。
そう言えば年金問題だって「100年安心プラン」って話を聞いてからまだ10数年しか経っていないし、消費税が上がるときだって社会保障充実のためだけに使うって聞いた。カジノだって産業のない過疎地振興のためにつくるって言ってたのになしくずしだし…。
おや、誰か来たようだ。
みなさま、どうかよいゴールデンウィークを……。
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詐欺師の生産性ーamazon マーケットプレイスで詐欺が横行中 - カエル先生・高橋宏和ブログ
ファミレスでマルチの勧誘を見た話(R) - カエル先生・高橋宏和ブログ
弁護士ドットコムニュースによれば、ここのところamazonマーケットプレイスで詐欺が横行しているという。
Amazonマーケットプレイスで「詐欺業者」横行…商品届かず、個人情報漏れる恐れ - 弁護士ドットコム
プロジェクターなど数万円する商品に1円など通常より格安の値段をつけて出品し、代金をだまし取るほか注文した人の個人情報も盗みとるという手法で、盗みとった個人情報は別の詐欺に使われるらしい。
【緊急警報】Amazonで世界規模の大中華詐欺が勃発中!! 被害者にならないために | More Access! More Fun!
こうした詐欺では、通常ではあり得ない安さの値段がついていたり、今まで出品経験のないにも関わらず同じタイミングで大量出品されていたりと明らかに「怪しい」ものも多い。
振り込め詐欺なんかもそうだが、よく見ればあからさまに「怪しい」設定の詐欺が多いのはなぜだろうか。「こんなのに引っかかるほうも引っかかるほうだよなあ」と思わせるような稚拙な詐欺があとをたたないのには詐欺師側からすればわけがある。
詐欺の生産性を高めるためだ。
生産性とは、利益/コストだ。
生産性を高めようとすれば、利益を増やすかコストを下げるか両方かしか方法はない。
伊賀泰代『生産性』(ダイヤモンド社 2017年)の序章で、新人採用の生産性向上の話が出てくる。
同書によれば、会社が10人の人を採用しようとしたときに1000人も2000人も応募が殺到するようでは生産性が低いという。
必要とされるスキルや能力を持った10人の人材が欲しいのに、基準に満たない有象無象が応募してきたら告知コストや選抜コストがかかる。だから、基準を満たす適正人材10人だけが応募してくるような採用方法がもっとも生産性が高い(コストが低い)理想の採用なのだそうだ。
詐欺師の生産性の話にもどる。
プロの詐欺師にとって、一定の割合で詐欺が発覚してつかまるというのは想定されるコストに含まれる。プロ詐欺師にとってはできるだけつかまらないほうがコストが下げられ、生産性があがるわけだ。
できるだけつかまらないようにするにはどうするか。
優良なカモだけがひっかかるように詐欺を設定するのだ。
優良なカモというのは平たく言えば「だまされやすい人」、「だまされても気づかない人」、「だまされたと気付いても警察に通報しない人」だ。
だまされやすい人、だまされても気づかない人、だまされたと気付いても警察に通報しない人、だけを選抜して詐欺にひっかけるにはどうするか。
一番最初から、だまされやすい人たちだけがひっかかるような設定で詐欺を行えばよい。
おかしな文章や相場からかけ離れた値段設定、中国やロシアといった発送元などをそのままにしておけば、優良カモじゃない人たち、すなわち注意深く、もし被害にあったらすぐ通報しそうな人たちはアプライしてこない。だまされやすい優良なカモだけがひっかかって、最後まで(詐欺師にとっての)トラブルなく詐欺が完走できるわけである。
(参考文献 瀧本哲史『戦略がすべて』新潮新書 2015年 p.137-138。注1)
だから、生産性の高い詐欺はむしろあからさまに怪しい。
あからさまに怪しいままにしておいて優良なカモをひっかけるのが彼らの手口なので、「常識的に考えて、そんなうまい話があるわけはない」と思うような話には近寄らなければ詐欺にあわずに済む。
詐欺を見破る方法はいろいろある。実をいうとぼくは見破る方法を完全に身につけたので金輪際詐欺にひっかかることはない。本来ならば詐欺を見破るその方法を逐一ここに書き記したいのだが残念ながらその時間はない。
なにしろこれから、最近知り合った「油田の権利を分けてあげる」という親切なナイジェリア人にぼくの銀行の口座番号をメールしなければならないのだ。
注1)スティーブン・レヴィット、スティーブン・ダブナー『0ベース思考』p.205-も参考になる。2019年1月付記
↓怪しいインチキ健康情報にひっかからないために必読。
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