赤ん坊が次々と流れてくる川と、その上流(R)

「川沿いの道をさ、歩いているとするじゃない」
パパ育児界の大立て者、ロックな兄貴のAさんが言う。
2008年の夏のことである。
川、ですか。
少子化問題についての調査でAさんのもとを訪れた僕とOは、生煮えの返事を返す。
「川沿いの道を歩いているとね、上流から赤ん坊が流されてくるわけ。
どうする?」
どうするって、そりゃあ助けます。
「そうだよな。
赤ん坊が流されてきたら、あわてて助けるよな。
でさ、赤ん坊を助けあげて、一生懸命弱ってるのを介抱してると、また上流から別の赤ん坊が流されてくるの。
そんでまたあわてて助けあげて介抱してると、また次の赤ん坊が流されてくる。
次から次へと赤ん坊を助けて、こっちもへとへとになってふと顔を挙げて上流を見る。
何が見えると思う?」

へ?
僕とOは顔を見合わせる。
「そうするとさ」
Aさんが言う。
「なんとそこに怪物がいて、次から次へと川に赤ん坊をなげこんでいるんだ。
つまりさ、目の前て弱ってる人を助けるってのはすげえ大事だけど、
時には一番上流に目をやって、問題の根本の怪物をぶったたかないとどうしようもないってこと。
それじゃあまあ、がんばってね」

Aさんとの初めの出会いはそんな感じで、あの三年間の中で出会った人の中で最もインパクトのあった人の一人だ。

「ものごとの本質を見極める」なんて話の時に思い出すのがこの話だ。

(FB2013年6月4日を再掲)

 

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