202×年、地球の医者はケンタウロスになる。
AI、人工知能についてあちこちで語られている。
オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授は、AIによって人間の仕事の約半分が奪われていくと予測した。
オックスフォード大学が認定 あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(1/5)
(しまった、引用元が週刊現代だ)
法律関係の友人U氏は言った。
「AIのせいで、50歳になるまでにぼくの仕事はなくなるんじゃないかって真剣に思いますよ」
それを聞いて、医者の仕事がAIにとって代わられるかが心配になった。危機のとき、誰しもまずは我が身が心配になる。
ブライアン・クリスチャン『機械より人間らしくなれるか?』(草思社文庫2014年)によれば、機械による医者の代替の歴史は古い。
1964~1965年にはすでに、MITのワイゼンバウムらは「イライザ」という会話プログラムを完成させている。これは精神科の一領域である来談者中心療法(患者の悩みに共感を示すことで成長を促す手法らしい)の手法をプログラム化したものだ。
悩みを抱えた患者がこのイライザを使うとこんなふうなチャット会話になる。
<送信 男って皆同じ。
受診 どのように?
送信 いつもあれをしろこれをしろってうるさいの。
受診 具体的な例を挙げられる?
送信 ええと、ボーイフレンドがわたしをここに来させたの。
受診 ボーイフレンドがあなたをここに来させた。
送診 彼はわたしがいつも元気がないって言うわ。
受診 元気がないとは、お気の毒ですね。
送信 本当よ。わたしは不幸せなの。
受診 ここに来ることで不幸せから逃れるための助けが得られると思う?
送信 わたしがなにか助けを必要としているのは確か。
受診 助けを得るとは、あなたにとってどんな意味?
送信 もしかすると、母との折り合いがよくなるかもしれない。
受診 あなたの家族について、もっと教えて。>
(『機械より人間らしくなれるか?』p.137-138)
相手の話にひたすらに耳を傾け、共感を示す傾聴。この傾聴のお手本みたいな会話だが、受診側の文章はすべてイライザというプログラムが返している。
イライザのプログラムはわずか200行。分析能力も記憶能力もない。人工知能というよりも「人工無能」といった感じだが、
<初めて≪イライザ≫と会話をした人々の多くは、本物の人間と会話をしていると信じて疑わなかった。場合によっては、ワイゼンバウム自身が否定しても、誤解は解けなかった。人々は邪魔をしないでくれと言い、ときには数時間も「二人きりで」話をして、有意義な治療を受けたと報告して帰って行ったのだ。>(同書 p.139-140)
このイライザの設計手法はその後のチャットプログラムにおおいに取り入れられていったという。
(この話、長いので続きます)
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