2018年11月13日朝のdmenuニュース(もとはNHK)によれば、東京都は都営バスの全運転手に3年に1度の脳MRI健診を義務づける、という。
都営バスの全運転手に脳のMRI検査義務づけ 東京都(NHKニュース&スポーツ)バスの運転手が病気や体調不良などで運転中…|dメニューニュース(NTTドコモ)
結論から言えば、バカバカしい。
費用対効果の面および倫理的な面から、明確に反対する。
倫理面では、健康状態というのは究極の個人情報である、という観点から、安易に被雇用者の同意なく雇用者が健康状態を把握できるような制度導入はすべきでないという立場で反対する。
何年かすると、「症状はないが、脳のMRIで小さい脳梗塞のあとがあるという理由で解雇された」という訴訟とか起こると思う。1万ペリカ賭けてもいい。
費用対効果の話。
普通のMRI検査というのは、脳の形態を見るもので、機能を見るものではない。
意識障害など病気の多くは、脳や体の機能の(一時的な)異常で起こる。
意識消失の原因の一つの睡眠時無呼吸症候群などは、脳のMRI検査では発見できない。
症状がない人に脳のMRIの検査をやっても、ごくごく一部の病気しか見つけられない。また、MRI で仮に脳の形の異常が見つかっても症状なければ様子見である。
脳ドックのガイドライン2014年p.55ー読むとわかるとおり、なんにも症状がない脳の形の異常(小さい動脈瘤など)が見つかった場合でも、雑に言えば「様子みましょう」「血圧は下げときましょう」という方針なんですね(この方針はとても妥当)。
小さい動脈瘤が破裂する危険性は非常に低いし、動脈瘤が小さい場合には手術によるリスクのほうが大きくなる。
だからMRIで異常があろうとなかろうと、血圧の管理というやることは一緒なわけで、なのにさもすごいことやるみたいに、莫大なお金と時間を費やしてMRI全員で撮ります!これで大丈夫です!とか言われちゃうと、もうね、ばかばかしくて…
また、症状のない人を集めて無差別に脳のMRI検査をやった場合、前述の脳ドックガイドライン2014年p.71にも書いてあるとおり、「あなたには小さな動脈瘤があります」と診断されると、そのことによって診断された患者さんがうつ状態になることがあったりして、無駄に患者さんに不安を与えるだけなんじゃないの、というのが脳ドック批判としてあります。
日本で脳ドックがはじまったのは1989年だそうですが、30年近くたってもほかの国に広まっていないというのは、無差別に健康診断的にたくさんの人に脳ドックやって、その結果、病気を減らすというメリットが少ないということではないかと思います。
誰かが自費でやるのは止めないけども…
非常に馬鹿げた話だなあ。よくこんな馬鹿な話が通ったものであるなあ。無駄遣いする予算があまってるなら保育所作ればいいのに、東京都。
もしMaster of Public Health、MPHをお持ちの先生がいたら、ぜひこの「都営バスの全運転手に脳MRIを義務付け」という政策に対し、異議申し立てないし検証し論文化していただけないでしょうか。
まがりなりにも先進国である我が国の首都で、費用対効果の面から、「反面教師」「失敗事例」として公衆衛生学の教科書に載る事例が現在進行形でスタートしてしまいます(泣)