医者とバイアスージェローム・グループマン『医者は現場でどう考えるか』より。

ここのところ、バイアスについて考えている。

 

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人は誰も、バイアスから自由にはなれない。
バイアスは、人間が危険を察知し瞬時に判断して行動するために発達したものだ。だからバイアスが常に悪者とは限らないし、もし我々が「自分にだけは確率を越えて良いことが起こる」という当事者バイアスを持たなければ、おそらく人生に絶望して衰弱死するだろう(この部分、友人Oとの対話による)。ぼくらが宝くじを買ってワクワクするのも合コンに行くまでの間にドキドキできるのも、こうした当事者バイアスのおかげである。当事者バイアス無しでは、人生はずいぶんつまらないものになるだろう。合コンのあとの反省会も盛り上がらないし。

 

そうは言っても、プロにとってはバイアスは要注意だ。
プロのギャンブラーはツイてるとかツイてないとか思い込みバイアスは極力排除し、淡々と、まるで仕事のように勝負すると聞く。その日予定している勝ち額や負け額に達するとあっさり賭場をあとにして翌日に備えられるものだけが、長いことギャンブルを生業とできる。

 

ぼくの生業は医者稼業なので、自分の仕事がどのようなバイアスを内包しているかを知っておく必要がある。
ジェローム・グループマン『医者は現場でどう考えるか』(石風社 二〇一一年)によれば、バイアスによる医者の判断エラーにはさまざまなものがある。
病気の典型像に判断が引っ張られすぎる「代表性(レプリゼンタティヴネス)エラー」(上掲書 p.52)、患者がネガティヴなステレオタイプと一致したときに起こる「属性(アトリビューション)エラー」(同 p.53)、望ましい結果を好み、不都合な結果を嫌うがゆえに起こる「感情によるエラー」(同 p.55)などなど。

 

それぞれのバイアス、判断エラーに対する警告や対策も存在する。
「代表エラー」に対し、ある救急医がこんなツイートをしている。
「我々が判断ミスするのは、珍しい病気が典型的な症状で受診したときじゃない。典型的な病気が珍しい症状で受診したときだ」
「属性エラー」に対しては、「病人を見るな、病気を見よ」。これは、その人が金持ちだとかそうじゃないとか、エラい人だとか犯罪者だとかという属性を見ると判断ミスをするから、ただひたすらに病気のことだけを真摯に見よ、ということだ。
「感情エラー」は、自分が思い入れを抱く相手に関しては現実以上に楽観視したくなるから起こる。医者が自分の家族の手術をしたがらないというのはこの理由による。

 

ミスをもたらすバイアス、判断エラーを最小化するには、バイアスを意識化し、よく考えて、決められた手順で仕事をするのが肝要だ。

 

グループマンは、上掲書の最後にこう述べている。
〈よく考えるには時間がかかるということは、絶対的な真理だ。性急に仕事をし、やるべき作業を端折ることは、認識エラーへの最短距離である。〉(同 p.288)

 

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