〈(略)瞬時に何かを判断する本能と、ドラマチックな物語を求める本能が、「ドラマチックすぎる世界の見方」と、世界についての誤解を生んでいる。〉(ハンス・ロスリング他『ファクトフルネス』日経BP p.23)
バイアスの話。
テラスと美食をこよなく愛する敏腕ビジネスマンKさんが同書と新型コロナについて書いていたので触発されて書く。
ハンス・ロスリングは、人間が持つ「ドラマチックすぎる世界の見方」にはさまざまな要素があると指摘した。
上掲書より列記する。
・分断本能 「世界は分断されている」という思い込み
・ネガティヴ本能 「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み
・直線本能 「世界の人口はひたすら増え続ける」という思い込み
・恐怖本能 危険でないことを、恐ろしいと考えてしまう思い込み
・過大視本能 「目の前の数字がいちばん重要だ」という思い込み
・パターン化本能 「ひとつの例がすべてに当てはまる」という思い込み
・宿命本能 「すべてはあらかじめ決まっている」という思い込み
・単純化本能 「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込み
・犯人捜し本能 「誰かを責めれば物事は解決する」という思い込み
・焦り本能 「いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み
人間には、こうした10の思い込み=バイアスがあるとロスリングは言う。こうしたバイアスにとらわれたままでは精神衛生上よくないし、ファクトに向き合うことでバイアスから自由になれると説く。
そのために大事なことがこの本には詰まっている。
ぼくが一番気に入っているのは、次世代の子どもたちにどうしたらファクトフルネスを教えられるかを書いたパートだ。
〈(略)
●世界は変わり続けていることと、死ぬまでずっと知識と世界の見方をアップデートし続けなければならないことを教えよう。
なによりも、謙虚さと好奇心を持つことを子供たちに教えよう。〉(上掲書p.316)
新型コロナウイルスでも、次から次へと新しい事実が判明し、状況はどんどん変わっていく。
ぼく自身も、極めて早期に「武漢で新たな感染症が報告されている。これは全世界的なパンデミックが起きるかもしれない」と警鐘をIさんが鳴らしたときにはピンときていなかった。
今日もまた、新型コロナに関して多くの言説が撒き散らされるだろう。情報の洪水とそれによる社会的混乱を、世界はインフォデミックと呼ぶようになってしまった。
最低限わかっているのは、わからないことがたくさんあること、わかり始めたこともたくさんあること、そして世界は変わり続けていることくらいだろうか。
だから、どこかの「有識者」や「専門家」がさも私だけは最初から全部わかってましたみたいなことをテレビで言い始めたら、「神様にでもなったつもりかい?」とでもつぶやきながら電源を切るのがよろしいのかもしれない。