2000年問題と日本的な仕事のやりかたについて。

誰にでも何にでも、原体験はある。
僕にとって日本の仕事のやり方の原体験は、とある大晦日の大学病院だった。

 

1999年12月31日。
研修医だった僕らに指示が下った。
「何かあったらいけないから、当科の研修医は今日は全員、病院に泊まり込むように」
それぞれの出身科を離れてローテート中の僕らも当然その対象だった。

 

何かあったらの何かとは何か。2000年問題だ。
コンピュータのプログラムの誤動作で、1999年から2000年に切り替わった瞬間に、停電や医療機器停止など、さまざまな問題が起こるかもしれないといわれていたのだ。

 

僕もそのとき、集中治療室で人工呼吸器につながれた受け持ち患者がいたし、もし2000年問題で人工呼吸器が止まってしまったら大変なことになる。

 

問題は、2000年問題で具体的にどんなトラブルが大学病院で起こりうるか、そして具体的な諸トラブルが起こったときに、誰の判断と指示に基づいて、誰がどう動くかを誰も知らないことだった。
何かあったら困るから、とりあえず人を確保しておく。そして何か起こったときには、その場にいる人がその場の判断でなんとかする、というのは非常に日本的な仕事のやり方だ、と強く思ったのを覚えている。

 

結局その日は何も起こらず、集中治療室でみなと「何も起こらなくてよかったね」と喜びあった。
職員食堂では2000年問題対策(対策と呼んでよいかは疑問だが)で出勤した職員のために特別に年越しそばが用意されていて、そんなところばかり気が回っていちばん大事なところはその場しのぎなところもまた、非常に日本的な仕事のやり方であるなあと思いながら、僕はそばに七味唐辛子を多めにふりかけた。

 

美味しく食べましたけどね。

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写真はイメージです


 

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