イタリアでは、新型コロナウイルスによる死者は2万人を越えたという。

通勤電車の中で、唐突に筒井康隆の短編を思い出す。
毎日戦場に電車通勤するサラリーマン兵士の話。
戦争という非日常と、電車通勤や満員電車やサラリーマンという日常の取り合わせが妙な味わいの話だった。
あのサラリーマン兵士氏も、戦場から帰宅したら子どもの宿題を見てやったりしたのだろうか。

 

公正のために書けば、ぼくが働いているのは町のクリニックで、新型コロナとの戦いの最前線ではない。後方支援のそのまた後方支援といったところか。
それでも日々、発熱の人を隔離部屋で診察したり(極力電話対応しているが)、診察室に入ってくるなり「実は咳が出て」という患者さんと会ったりしている。

 

ありのまま言うと、もう日常の医療体制は崩壊している。
「熱があるのに病院くるなんて非常識!」「この時期に大病院に新型コロナ以外で紹介してくるなんてありえない!」「触診?聴診?そんな接触リスクがあることなんてできるか!」となっている現状は、いままでの日本の医療体制とは全く異なっている状況だ。

 

だから、いま病気やケガで病院にかかろうとしても、いままでと同じ感覚で病院を利用できなくなっている、ということだけは申し上げておきたい。
これが大袈裟でないことは、この文章を読んだことを伏せて、別の医療関係者にきいていただければわかるはずだ。



ニュースによれば、イタリアでは新型コロナによる死者が2万人を越えたという。
イタリアの人口は6036万人(2019年)だから、この短期間に3000人に一人は新型コロナによって亡くなったことになる。

 

人間が友人知人として認識できるのが400人とすると、「友達の友達」は単純計算で400×400=16万人。イタリアはこの短期間に「家族・友達や友達の友達が何十人も新型コロナで亡くなった」状況なわけで、言うべき言葉が見つからない。

stay home, save lives, pray for them.