『ラーメンハゲ』と『流行唄(はやりうた)』(その1)

思秋期に遭う時節には思秋期に遭うがよく候
これはこれ思秋期を逃るる妙法にて候
良寛さんならそんなことを言うだろうか。

 

実生活では災難なんて来てもらっては困るし、コロナ対策だってばっちりやるが、なぜだか40代後半になって、40代後半ならではの気分を十二分に味わわなければという気分になった。朝が一日二度ないように若い日が再びないように、思秋期だって一度きりで、ならばそれを存分に楽しんでいったほうがよかろうし、同じこの世に生まれりゃ兄弟、歳月不待人。

 

で、そんな今日このごろにグッときたのが『ラーメンハゲ』と『流行唄』。
ラーメンハゲはマンガ『ラーメン発見伝』『ラーメン才遊記』『ラーメン再遊記』に出てくるラーメンの天才、芹沢達也(40代)。

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この人が「ラーメンハゲ」こと芹沢さん。



この人はいわば『美味しんぼ』の海原雄山ポジションで、当初は『ラーメン発見伝』主人公の憎きライバル、傲慢で自信家なイヤな奴として登場するんだけど、いつしか読者の心を鷲掴みにして、シリーズ最新作『ラーメン再遊記』では主人公になってるんですね。


で、『ラーメン発見伝』ではラーメン界の革命児、大衆食・B級料理を芸術にまで高めなおかつ商業性と両立させた稀代の天才として描かれていたこの芹沢さんが、『ラーメン再遊記』ではなぜかショボくれた町中華で伸びたラーメンをすすって、ほっとしている。才能の枯渇です。

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(ギラギラの人がこんな感じに)



かつては自分が誰よりも斬新で誰よりも本質をついたラーメンを作り、次々と世の中をあっと言わせていたのに、気づけば新しい世代がどんどん世に出てくる。
新しい世代は、自分たちの世代が葛藤し悪戦苦闘した様々な制約を軽々と乗り越え、当たり前のようにより高みに到達していく。
自分が今やっていることといえば、過去の自己模倣に毛が生えたことだけ(毛は生えていないが。もっともアレは万が一でも髪の毛がラーメンに入ってはいけないから自分で剃ってるんだそうです。ストイック)

 

いったい俺は何なんだ。
『ラーメン再遊記』で描かれるのは、そのものズバリのミドルエイジクライシスです。
『ラーメン再遊記』はまだ一巻しか出ていないのでこれからどう話が転ぶかわからないけれど、そこにうっすらと提示されているのは、ミドルエイジクライシスにおける自己の再生のカギです。
読み直すとどう考えても『美味しんぼ』のラーメン版を狙ったであろう『ラーメン発見伝』シリーズが、こんな深みと高みに達するとは、若き日の作者たちも思ってもいなかったことでしょう。

 

(続く。ちなみに上記の『流行唄』は柳沢きみお氏のマンガの題名です)

 

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